DXの最新事例が満載!福岡発オンラインイベント「FUKUOKA DX WORLD」レポート(前編)
2021年11月8日〜12日に福岡発地域最大級オンラインイベント「FUKUOKA DX WORLD」が開催された。「未来の働き方を創る」を主軸に、「DXと未来」、「人材・キャリア」、「営業・マーケティング」などのテーマでセミナーが行われた。福岡発のデジタル関連イベントを行うことで、地方企業の変革につなげる目的だ。
主催は、福岡でバックオフィス部門のデジタル化を支援する株式会社HOnProや営業のデジタル化を支援する法人営業デジタル化協会、地方企業のマーケティング支援などを行う株式会社musuhiら47社の参画によって構成されたFUKUOKA DX WORLD運営実行委員会。
FUKUOKA DX WORLD運営実行委員会の越ヶ谷泰行(えちがたに やすゆき)氏は、「ここ数年、地方創生や地方企業のデジタル化を目的としたオンラインイベントは増加の傾向にあります。しかし、そのほとんどが東京の企業による主催であり、一過性のイベントであることから、地方企業の変革につながっていないという懸念もありました。そこで福岡の企業が主催し、福岡の企業のデジタル化事例を伝えるイベントを企画しました」と開催の目的を語った。
本記事では、最新のDX事情をキャッチアップできるセッションを複数ピックアップして見どころをお伝えしていきたい。
目次
これから営業は、分業とデジタル化がトレンドになる
11月10日に行われたセッション「これからの営業DX」では、一般社団法人営業デジタル化協会の代表理事・五十嵐政貴(いがらし まさき)氏がモデレーターとなり、「未来の営業DX」とはどのようなものか、6名の登壇者と議論が交わされた。
デジタル化の発展とともに営業の世界もデジタルツールの利用が進んでいる。たとえば営業に欠かせない「電話」は昔からあるツールだが、その使い方には変化が起きているという。
デジタルマーケティングツールの提供やコンサルティングを行う クラウドサーカス株式会社の田中次郎(たなか じろう)氏は「これまでの電話営業といえば、電話帳や顧客リストを開いて上から順にひたすら電話をかけていくものでしたが、例えば自社HPの料金ページやセミナーページでの滞在時間が長い方を抽出して会社名からテレアポすることも可能になりました」と語った。
営業支援ツールを開発する株式会社マツリカの中谷真史(なかたに まさふみ)氏は、これらからの時代は営業パーソン自体が減っていく傾向にあると指摘した。
「少子高齢化の影響やデジタルツールの発達 によって、今後営業パーソンの数は減少していくと考えています。その結果、顧客に付加価値を提供できる営業が求められるようになるのではないでしょうか。BtoBの営業であれば、企業や事業に対する”提案”が付加価値となりますが、提案よりも説明の時間の方が長いケースは多々あります。デジタルツールなどを活用して無駄を徹底的に削減し、提案というクリエイティブな業務に時間をかけて質を高められる営業が増えていくのではないかと考えています」。
営業パーソンが減っていく中、営業組織はどのように変化するだろうか。 クラウドサーカス株式会社の田中次郎氏は「15年前は営業部が自社の7割を占めていたが、現在は純粋な営業パーソンは1割程度と大幅に減少しました。その分増えたのがカスタマーサクセス(商品やサービスの利用によって顧客を成功に導く取り組み)です。これまでの営業は飛び込みから商談、成約後のフォローと一人で何役もこなしていましたが、現在は分業して各自の専門性を高めるtheモデル型の分業組織が流行っています」と営業組織のトレンドについて語った。
営業活動の分業化によって業務の属人化を防ぎ、社員それぞれが得意な分野に注力することで、営業力を上げるというのがこれからの営業組織のあり方のようだ。
レタス農家や老舗豆腐店をDX!DX成功のコツや失敗例とは
11月11日に行われたセッション「商売が長くつづくための、ただしいDXの進め方」では、長野県にあるつづく株式会社代表取締役の井領 明広(いりょう あきひろ)氏が登壇した。
これまでにレタス農家や老舗豆腐店など全国で100社以上のデジタル化を支援。中小企業がなぜDXをするのか、DX成功のための3ステップ、DXが進まない理由などについて、実際にデジタル化に成功した事例を挙げながら語った。
長野県にある創業70年目の「両国屋豆腐店」。毎日、その日に作る豆腐の合計数を算出するために、業務開始から1時間かけて付箋に貼られた受注数を電卓で計算したり、納品書の作成に1時間半以上もかかったりと、紙を中心とした非効率な働き方に疲弊していた。しかし井領氏とともにデジタル化を進めて、年間750時間かかっていた作業を600時間も削減することに成功したという。
「豆腐店の店主さんは、自由な時間が増えたことで、長年やりたいと考えていたオリジナル商品の開発や新規営業に挑戦でき、新規受注も増えたそうです。創造的な楽しい活動を増やし、やらなくていいことを減らす、そうすると自然とワクワクする活動が増えます。これは商売が長く続くための原理原則です」と井領氏。
また井領氏は、よくあるDXの失敗例を次のように説明した。「経営者が小さなスタートをイメージできず、大きい夢だけを求めて従業員がついてこられないという事例は多々あります。いきなり全てを変えるのではなく、まずはチャットツールなどコミュニケーションアプリを導入するといった簡単なことから始めることが大切です」。
最後に井領氏は「DXは単なる手段です。いい包丁があればおいしい料理ができるわけではありません。DXはすごいものをつくりだせる手段ではありますが、結局何のためにDXするかをじっくり考えることが必要でしょう。さまざまな環境が整ってきた現代は中小企業にとって面白い時代です。ぜひ挑戦をしてみてください」と締めくくった。
コロナ禍で変わる消費者、店頭在庫のデジタル化が鍵
11月9日に行われたセッション「顧客中心で考える新しい購買体験とは?」では、小売のDXを支援する株式会社Patheeの寺田 真介(てらだ しんすけ)氏などがコロナ時代の小売DXについて掘り下げた。
寺田氏によると、購買行動はデジタルの発展とともに大きく変化しており、とくにコロナ禍で購買体験が大きな変化をしているという。
「以前は、消費者は商品棚の前に立ったときの印象で買うものを決めたり、テレビや新聞で認知したものを購入したりするという購買行動が一般的でした。しかし、インターネットの発展とともに、来店前に何を購入するかすでに意思決定が終わっており、空き時間にスマホを操作し、瞬間的に買いたい気持ちになったらその瞬間に購入する消費行動(パルス型消費)に変わっています。さらにコロナ禍によって、ECの利用は増加し、抵抗感もなくなっています。今後はECと店舗を併用して、両方をデジタルで考え相互にシナジーを効かせる購買体験が求められるようになります」と寺田氏。
「コロナ禍によって外出することが慎重になり、消費者の8割近くが商品情報を事前にインターネットで調べているというデータがあります。そこで、ECと店舗の在庫管理を一元化し、消費者が欲しい商品が店頭で手に取れるかをWeb上で確認できれば、来店を促す効果があります。過去には、「地名 商品名」で検索した際に、店頭の在庫を表示するようにデジタル化したことでWebサイトへのアクセス数は3倍以上、店舗への問い合わせなどは20%以上増えました。売上にも影響し、ECサイトの売上は月額円数百万円 増加、店舗売上も月額数十万 円増加した事例もありました」と語り、消費者の行動変容が起きている今、店頭在庫のデジタル化することの重要性を訴えた。
福岡市はDXでどう変わる?今注目の自治体DXの実態とは
最後に、11月9日に行われたセッション「福岡市政のDXへの 取り組み方針について」を紹介する。
福岡市のDXを推進するために2020年11月に創設された福岡市の「DX戦略課」。日本最大級の匿名掲示板「2ちゃんねる」開設者として知られる西村博之氏など民間のDXデザイナー4名を登用し、公民連携でDXを推し進めている。同課の熊本博隆氏が登壇し、福岡市が目指すDXについて語った。
「新型コロナウイルス感染症の流行により、行政分野のデジタル化の遅れが明らかになりました。新しい生活様式の実践が求められる中、行政のデジタル化への重要性は高まっています。このような状況から区役所などの窓口に行かなくても手続きが完了する『ノンストップ行政』の実現を目指しています。約10年前から電子申請システムを導入していますが、PCでの利用が前提であったり、マイナンバーカードによる電子署名ができない、大容量の添付ファイルに対応できなかったりするなどの課題がありました。そこで新しい電子システムに刷新して利便性を向上させました。たとえば住民票の写しや税務証明書などの交付申請をマイナンバーカードの電子証明書による本人確認とクレジットカード決済の導入、書類の郵送によりオンラインで手続きが完結できるようになりました。2023年3月末の時点で、『年間総処理件数の90%以上をオンライン化』することを目標に掲げています」。
同時に業務効率化も進めており、RPAやAI-OCRを2019年より本格的に導入し、年間5100時間の業務を自動化できているという。その他、電子契約の実証実験を2021年1月から民間企業2社と1年間行ったり、区役所などに足を運ぶことなく遠隔での手続きや相談を可能にしたりするリモート窓口の実証実験の検討を進めているそうだ。
子どもから高齢者まで誰もが支障なく利用できる「市民目線のDX」を推進する福岡市の挑戦は今後も続いていく。
本記事では、最新のDX事情を軸に多業種の事例をお伝えしてきた。後編として「DX人材」を軸としたセミナーレポートを近日中に公開予定しているので、ぜひあわせてお読みいただきたい。
平川朋子
IT系の出版社を経て、フリーランスのライターに。主な領域はITやBtoB関連。企業のWebサイトやプレスリリース、パンフレットの制作などにも携わっている。
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