事例 実践

「大量のお問い合わせを効率的に対応する」 24時間365日働くチャットボットの可能性は無限

コロナ禍で非対面やEコマースが加速し、注目を集めている「チャットボット」。企業のWebサイトやLINEアカウントの自動問い合わせなどで利用したことがある方も多いかもしれない。

本記事では今後、導入が増えそうなチャットボットについて、その概要や活用の幅、これからの可能性について、りらいあデジタル株式会社(以下、りらいあデジタル)の清水康太代表取締役社長(以下、清水氏)と広報・サービスコンサルタントの大柳文乃氏(以下、大柳氏)に話を聞いた。

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自動応答のチャットボットが社内外の問い合わせに対応

チャットボットとは、「チャット(おしゃべり)」を「ボット(自動化)」するという意味で、企業が運営するWebサイトや企業のLINEアカウントへテキストで質問をすると自動で即座に返答が届くシステムを指す

一度、導入をすることで、コールセンターや窓口のように、リアルタイムに多くのリソースを割くことなく、多数の問い合わせの対応ができるのが最大の利点だ。新型コロナウイルスに背中を押されてデジタルシフトやリモートワークなどが進む企業が増える中で注目が高まっている。

では、このチャットボットはどういった場面で活用できるのだろうか。

りらいあデジタルは顧客サポートに特化した「バーチャルエージェント®︎」というチャットボットプラットフォームを開発し、さまざまな企業への導入のみならず、運用時の改善提案なども総合的に推進している。清水氏によると、「WebブラウザやLINE、アプリを通じてユーザーとコミュニケーションを図るところならさまざまな場面で活用できます。イメージしていただきやすいところでいうと、ECサイトやサイト内のお問い合わせなどに対する顧客サポートです。それから、規模の大きい企業においては、社内のヘルプデスクをチャットボット化するところも増えています」と話す。


出典:りらいあデジタル

<チャットボット導入の一例>
・ECサイトでの顧客サポート 商品購入に際しての問い合わせや返品・交換などのリクエストへの応答
・社内のヘルプデスク 経費精算や申請書類の説明など、社内ルールのマニュアルやFAQとして
・顧客との関係構築ツール LINEアカウントなどで、雑談感覚で気軽に質問しやすい仕組みにより信頼関係を構築

既存の問い合わせ窓口と並行することでより利便性が高いサービスに

すでに導入し、運用している企業における変化について聞いてみると、以下のような具体的なエピソードがあった。

<電話やメールで行うより、利便性の高い顧客サポートが可能になった>

電話はつながりにくく、営業時間が限られ、メールだといつ返ってくるのかが読めない。チャットボットは24時間365日、コールセンターや有人チャットの営業時間外のお問い合わせを補い、顧客が疑問を抱いた瞬間に自己解決へと導く即時性が支持されている。

 

<社内からの問い合わせへの対応に割く時間が大幅に削減できた>

社内の手続きや申請など、複数の人から同じような質問が届く場合、ヘルプデスク担当者は汎用的な質問への対応に多くの時間を奪われてしまう。FAQや自動応答で大半を解決し、本当に必要な問いにだけ人間が対応し、社内ヘルプデスク業務の効率化を図るケースも増えてきている。

 

チャットボットの利用イメージ

このような変化が起きた背景には時代の変化もあった。りらいあデジタルが設立する前身である、りらいあコミュニケーションズ株式会社の一部署でチャットボットをサービス提供し始めた2012年頃は、スマートフォンが登場し、BtoCでWebサービスを展開している大手企業が顧客対応のために導入していた例が多かったが、近年は金融系企業・自治体や社会インフラの問い合わせ窓口のニーズも急増しているそうだ。

春の引っ越し時期には電気やガスなど、毎年同じ時期に似たような質問が押し寄せる場面がありますよね。こういうケースではチャットボットが活躍します。また、現在はコロナ禍ということで、自治体にも多くの人から同じような問い合わせが殺到する状況が続いています。こうした際に、人手だけでは限界があります。膨大な業務をさばききることが困難なところこそチャットボットの活躍するフィールドだと考えています」と清水氏。

確かに、同じような問い合わせに繰り返し同じ対応をするのであれば、自動化してしまった方が圧倒的に効率的で、問い合わせる方のストレスも軽減することができる。導入した企業の多くは、コールセンターや店舗、窓口などを廃止するわけではなく、チャットボットと並行して運用するそうだ。

これは顧客ファーストの視点で考えると、まだまだ直接電話をかける人や店舗で尋ねる方がいいという人も多いからだ。しかし、顕著なケースでは、導入後1年程度で、チャットボットの認知度と利用数が上がった事例もあるそうだ。結果として、総問い合わせ数*の半分近くがチャットボットでの対応となり、生産性や業務効率の向上につながっているという。

* 総問い合わせ数…電話+メール+チャットボット全ての問い合わせ件数の合計値

実は、問い合わせの40〜60%はシンプルな内容

チャットボットを導入する手順についても話を聞いた。導入前から顧客サポート向けのFAQや問い合わせ窓口がある場合は、FAQデータやユーザーから寄せられたお問い合わせ内容がベースとなる。それをもとに、チャットボットのナレッジ(チャットボットに登録するQAデータ)を作成するスペシャリストが、目的やシチュエーションに合わせて、会話設計を行う。話し言葉で入力をするユーザーの疑問を解決する確率を上げるべく、シナリオや回答を細やかに作り上げ、精度チェックやチューニングを繰り返してリリースする。また、作って終わりではなく、解決できていない疑問があれば、どうすればもっと拾えるかと、工夫を凝らし、できるだけ多くの顧客がチャットボットだけで疑問を解決できるように育てていくのだ。

広報担当の大柳氏は、「チャットボットは自動化ツールですが、立ち上げは全部私たちにお任せください!というわけにはいきません。私たちは、チャットボットのプロフェッショナルではありますが、それぞれの企業さまの顧客や社員の皆さんが抱く疑問は実際にお問い合わせを受けられている企業さまがいちばんよくご存知です。私たちのツールと企業さまに蓄積している知見を合わせてベースをつくり、顧客からの問い合わせを受けながら、さらにバージョンアップさせていくことで、より活用されるようになります。いわゆる運営の部分が肝なのです」と話す。

過去、顧客から届いた声の中にはコンタクトリーズン(問い合わせをした理由)が隠れている。まずはそこを知ることで、どんなチャットボットをつくれば最適なのかが見えてくるという。

話の中で、1つ驚くべき数字が出てきた。顧客からの問い合わせの中で、40〜60%は自己解決ができると思われるコンタクトリーズンで占めている。この数字から、人間のオペレーターが対応しなくては解決できない複雑またはセンシティブな内容は実は少ないということが分かる。言い換えると、「営業時間は何時まで?」「返品方法は?」「送料はいくら?」といった自己解決可能な疑問が多くを占めているということだ。

こういった質問がチャットボットで置き換えられることで、コールセンターで汎用的なお問い合わせへ回答する負荷が軽減されることは容易に想像ができるだろう。それにより業務効率の改善や、働きやすさの向上につながったり、ひいては顧客対応リソースが強化され、顧客満足度を高めてくれたりするのも納得の結果ではないだろうか。

顧客ファーストな考えが競争力アップ&コストカットなどの副産物につながる

今後、日本では人口減少・労働力不足など、避けて通れない課題がたくさんあり、企業も業務効率化・生産性向上という課題から目をそらすことができない。

また清水氏によると「今後、社会全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進むことで、商品や機能が増え、サービスも多岐にわたるなど、問い合わせの内容も複雑化し、お問い合わせ数も増えていくでしょう。それに伴い、人手不足の中、より効率的に顧客対応リソースを増やしながらも、顧客の利便性を上げることが求められます。

顧客のタッチポイントがデジタルチャネルに移行しているなか、チャットボット起点のコミュニケーションデザインが重要だと考えます。であれば、早い段階から顧客からの問い合わせデータやコンタクトリーズンを分析し、顧客ファーストで応えていくためには何ができるか考え、動いていかないと、各企業が同業他社と競争していく力が弱くなってしまうのではないでしょうか」。

チャットボット導入・開発の現場では、つい目先のコストカットや工数を減らすことに目がいきがちなのだそうだ。しかし、最も優先すべきは「自社のためという視点ではなく、自分が顧客だったら何が使いやすいのかを突き詰める顧客ファーストの視点を忘れないこと」と清水氏は言う。その結果、スムーズな運営、業務の効率化が加速し、結果としてユーザーからの数字もついてくるケースが多いそう。

チャットボットも他のDX同様、最初は、大手企業から進んでいたが、これからは中小企業や地方でも導入しやすくなると予想される。「AIを使って、どんな問い合わせにも完璧に応えるようなものにしようとしたら予算も大きくなるが、最初はよくある質問だけに対応するシンプルなチャットボットにすれば、それほど大きな予算はかかりません。時給で雇用するアルバイトや派遣スタッフを長期的に雇うことを考えると、繰り返し学習することで賢くなり、24時間365日働くチャットボットの可能性は無限大です」と清水氏。ただし、導入する際には関係部署だけでなく、システム部門・マーケティング・顧客サポートの現場担当者たちの知見や協力も欠かせない。会社全体で顧客ファーストの考えを持ち、一致団結する必要がありそうだ。

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将来的には、窓口や電話、メールとチャットボットなどがそれぞれ対応するのではなく、問い合わせが届いたらまずチャットボットで受け、解決できなければ有人チャットで担当者が対応し、それでも難しい場合は電話で説明するなど、よりシームレスなコミュニケーションに発展していくことも予想されている。現在は、テキストチャット中心だが、そのうち5Gが浸透していけば、音声でやりとりをするボイスチャットや動画による説明なども増えていくだろう。

ライター:戸田かおり

戸田かおり

福岡市出身&在住。雑誌編集や企業広報、広告制作プロダクションで制作業務を経験し、フリーランスに。雑誌や冊子物のインタビューやブランディング、Webメディアの立ち上げなどに携わる。趣味は、猫、車、ボード&カードゲーム、ダーツ、麻雀。

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