事例 実践

「不安で眠れない」西南学院大学がDX推進、就活も留学もオンライン化で学生支援

西南学院大学の外観

企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)同様、教育の世界においてもDX推進は喫緊の課題となりつつある。パソコンやタブレットを使う学校や授業の増加、小学校でもプログラミングが必修化されるなど、教育とDXの距離はこれからますます近づいていくだろう。

本記事では、大学においてDXは今どのように進んでいるかという点について取り上げる。福岡市・早良区にある私立大学、西南学院大学は「語学の西南」と呼ばれ、国際教育の充実などが高く評価されている。2020年のコロナ禍で大きな影響を受ける中、大学側は動画による説明会や、オンラインを活用した国際交流など、大学教育現場のDX化を推進した。学生たちの学びや歩みを止めさせないためにどのようにDXを活用したのだろうか。

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動画やオンラインを活用し、学生の留学や国際交流を支援

お話を伺った中島氏、松本氏の画像

教育支援部 国際センター事務室 中島功晴氏(画像右)、学生支援部 就職課 松本茜氏(画像左)

新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年度、大学は通常とは違う動きを取らざるを得なくなった。普段なら新入生であふれる季節、就職活動や留学支援など、対面で細やかに行っていたサポートをそれまで通りに行うことができなくなったからだ。留学は全てキャンセルになり、説明会や面談も従来の対面形式で続けることは難しい状況だった。できるだけスピーディーに、学生への負担をかけることなく形を変えていかなければと各部署がDXを導入し始めた。

まずは、学生たちの留学や国際交流をサポートしている国際センターの中島功晴氏に話を聞く。

コロナ禍以前は、対面で1対1の面談または職員から複数の学生への説明会を行い、留学を希望する学生に手順や手続きの指南をしていたという。ところが、2020年4月より緊急事態宣言が発令され、学生だけでなく職員も在宅勤務を余儀なくされた。

「留学は、1年・2年次の80%前後の学生が希望するので、入学早々相談に来る学生も少なくありません。特に本学は、留学したいから入学してきたという人も多くいます。1度しかない学生時代の貴重な時間に、『コロナ禍が落ち着くまで待ってくれ』とは言いたくないと考え、ZoomやInstagramなどを活用して、何かできることはないか、模索していました」と中島氏。

説明会&面談のオンライン化で、学生のニーズが明確に

説明会は、これまで複数の日程で開催し、多くの学生が参加できるようにしていたが、コロナ禍を受け、オンラインで見てもらえるように説明会のための資料を作成し、職員による説明を撮影した動画を配信。

また、個別の相談や質問は、Web会議ツール(zoomやWebex)で行う方針に変え、Webで予約できるフォームも新規で開設。「どちらも立ち上げ早々、学生からの予約があり、ニーズの高さが感じられた」と中島氏は振り返る。

説明会の内容は、対面でもオンラインでもそう変わらないが、アーカイブしておけば学生は好きなタイミングで何度でも確認することができる。また、個別相談についてもどんな相談が多く寄せられるかというデータの蓄積を、スプレッドシートなどを使って整理し、内部での情報共有が進むことで、より一層学生が必要としている情報発信ができそうだ。

海外の大学と連携し、オンライン留学も実現

世界中が国をまたいだ移動を制限した2020年、留学中だった学生や、留学を予定していた学生は大きく予定を変更せざるを得なかった。西南学院大学からも年間約250人前後が海外の大学で語学研修に参加していたが、全て白紙に。

しかし、留学生を数多く受け入れている世界中の大学側も、何とかプログラムをオンラインにして留学ができないか、試行錯誤を続けた。西南学院大学も各協定校と連絡を取り合い、オンラインでの学びをつなげられる架け橋になるべく、説明のためのWebサイトを作成。新規にできたオンラインプログラムであったが、早速30名強がオンラインに切り替えて語学研修を受講することができた。

インスタグラムにて語学研修の告知

インスタグラムにて語学研修の告知

現地で暮らすことにより学べる日常生活の習慣や、人々との交流は欠けてしまうものの、現地に赴く語学研修に比べるとかなり低価格で学べるという利点もあったという。オンラインでの語学研修を受けて学習意欲が高まり、いずれは実際に海外へと考える学生にとっては貴重な機会になったようだ。

自宅にいながら国際交流、IGTVやZoomを活用してイベントも開催

また、西南学院大学では、学内でも語学学習や国際交流の機会が多く設けられていた。曜日を決めてラウンジに集まり、英語やフランス語、中国語などで会話をする時間を設けた国際交流が盛んに行われていたが、そうした活動も一部オンラインへとシフトさせたという。

インスタグラムにてオンラインイベントの告知

インスタグラムにてオンラインイベントの告知

国際センター公認の学生団体である「SEINAN Global Society」は、InstagramのアカウントでIGTV配信(Instagramのビデオアプリケーション)を行ったり、西南学院大学の学生と海外から西南に留学した経験のある学生との交流イベントを開催したり、積極的に活動を続けた。

イベントはZoomで行われたため、学生たちはパソコンやスマホさえあれば、どこからでも気軽に参加できたそう。

就職活動の支援もデジタル化へ

次に、就職活動を支援している就職課の松本茜氏に話を聞いた。

近年、就職活動は、3月1日に企業の採用情報が解禁するスケジュールになっているため、それに向けて学生は就職活動を進めていくという流れだったが、やはりコロナ禍の影響があり、学外においても大型イベントが軒並み中止になるなど、大きな影響があった。2020年4月上旬に緊急事態宣言が発令され、職員も在宅勤務となり、就職課としての支援を変更せざるを得ない状況であった。

コロナ禍で進路選択をする学生の不安は計り知れません。学生の不安を少しでも和らげることができたらという思いから、まずはできることからとeラーニングプラットフォームMoodleを活用した情報発信や学生へのアンケートの実施、個別相談のオンライン化(Webex)を創案しました。最初にとったアンケートでは、『先が見えず不安で眠れない』などの声があったため、とにかくスピード重視で動こうとチーム一丸になって動き始めました」と松本氏。

学生の個別相談も対面からオンラインへ

就職活動は、自身の希望や抱える背景など、かなりセンシティブな個人情報を含むため、あまり開かれた場所での情報公開や共有は難しい。就職課にも取り扱いに気をつけるべき情報があるため、オンラインへの動きは慎重に進められた。

学生にとって、本やインターネットを使った情報収集は自粛期間でもできたが、例年と違ったのは就職課の職員やキャリアアドバイザーと対面で話すことができなくなったことだった。

普段、家族や友人、教員としか話す機会がない学生も多く、キャリアのプロであるアドバイザーや就職課職員などの社会人と話すことで、自身の長所や改善すべき点に気づくこともあり、面接の練習により社会人と話す経験を重ねることはとても重要だ。

職員と学生がオンラインで面談している様子

職員と学生がオンラインで面談している様子

キャリアアドバイザーや就職課員との面談をWebexなどオンラインで行うための環境を整え、2020年5月からスムーズに行えるようになった。学生にとっても職員やキャリアアドバイザーにとっても初めての経験であったことから、最初は多少の行き違いや戸惑いもあったようだが、すぐに慣れたそう。その後、コロナ禍での就職活動を経験した4年生にも個別相談のアドバイザーとしての協力を仰ぎ、面談に参加した学生にとって、コロナ禍でのリアルな就職活動や対策を知る機会となった。

学生にとって身近なMoodleを使って情報共有

就職活動は、情報をいかに取り入れて、活用するかという点も大切だ。西南学院大学では、「学生が普段から見慣れていて、新しく何かを覚える必要がないツールで情報発信をしよう」と考え、オープンソース(公開されたソフトウェア)のeラーニングプラットフォーム「Moodle」を活用した。

Moodleは、すでに大学の授業関連の情報共有や課題の提出などに使われていたこともあり、学生たちは戸惑うこともなかったようだ。ここでは就職課が配信した動画のアーカイブや、オンライン相談会、イベントの情報発信、就活関連の資料データや、よくある質問への回答データなど、有益なデータを可能な限り格納し、学生が好きなタイミングで進路選択や就職活動に役立つ情報を閲覧できるようにした。またアンケートフォームもあり、学生の声をタイムリーに収集することも可能になった。

就職課職員によるイベントはWebexを活用したライブ配信にし、企業をゲストに

面談や情報発信は、コロナ禍以前から行っていたコンテンツをオンライン化しているが、もう1点、コロナ禍になったことで生まれた新たな取り組みもある。就職課の職員による配信イベントを、Webexを活用したライブ配信で行ったのだ(キャリアステーション)。

就職課職員によるライブ配信イベント「キャリアステーション」の様子

学生に向けて、就職活動の心構えや、時期ごとに必要な準備などを伝え、同時にチャットで学生からの質問を募り、投稿された質問にタイムリーに答えることもできる。大勢が対面で参加する説明会などでは挙手をして質問をする勇気が出なかったという学生も、チャットならば、より気軽にテキストコミュニケーションを投げることができる。話している職員にとっても、本当に求められている情報を提供することができ、双方にとっての利点があった。

また、就職課員に限らず、ライブ配信のゲストとして実際に採用に携わる企業の採用担当の方をお招きしてお話していただく機会を設けたところ、非常に多くの学生が参加したという。これは、コロナ禍以前にも例のないイベントであった。

数々の取り組みをオンラインにしたことで見えてきた変化や気づき

国際センターと就職課で共通して見えてきた気づきや変化を振り返ってみたい。

1.学生の不安や戸惑いを、つながることで解消した

言うまでもなく、学生にとって、留学や就職活動は人生のターニングポイントになり得る大事な出来事だ。業務連絡のように必要な情報が提供されるだけでなく、今感じている迷いや不安を、キャッチボールをしながら話す重要性は高い。対面とまではいかなくても、声色や表情を感じ取りながらリアルタイムでコミュニケーションが取れるZoomやインスタライブはとても有効だったそう。

2.今後も残していきたいオンラインならではのコンテンツもあった

例えば、留学や就活の説明会など、動画をアーカイブしておけば、参加できなかった学生や参加したけれど見直したい学生にとって有益なコンテンツとなる。ライブイベントや国際交流についても同様で、挙手をして質問をすることはできなくても、テキストチャットのコメントでなら質問ができるという学生もいる。また日本にいる留学生との交流はオフラインでできるが、国境を越えて、国際交流をしたい学生同士のつながりはオンラインならではだ。

3.オンラインにオンラインにすることで学生の時間的・経済的コストが軽減

オンラインを活用すれば、授業やアルバイトで参加できなかったイベントを後から確認できたり、留学や就活で移動に必要な時間や費用の負担を減らしたりすることができる。もちろん、対面とは得られる情報や体験価値が変わるかもしれないが、時間的・金銭的な負担が軽減することは大きなメリットだといえそうだ。

なぜスピーディーにDXを推進することができたのか

このように、以前はオフラインで行われていたさまざまなイベントがオンラインへとシフトしたが、そこで見えてきた新たなメリットや今後につながる収穫もあったようだ。なお、遠隔授業実施に伴い、パソコンや周辺機器などを購入するにあたり、希望した学生には上限4万円で大学からの支援金も支給し、延べ5000人が利用した。

職員の方に、ここまで素早くDXを推進することができた成功要因について尋ねてみた。

どちらも共通するのは、若手の職員が中心となって、動画撮影や配信などの専門技術をアウトソーシングすることなく、ある程度自分たちで勉強を進めた点だ。国際センターの中島氏は「オンラインで見やすい資料や、Instagramでイベント告知に使うサムネイルには、無料で使えるオンラインデザインツールのCanvaというデザインソフトを使いました。Webデザインのプログラム言語についても最初は知識がありませんでしたが、在宅勤務になり、通常業務ができなくなったことで空いた時間を学びに充てました」。

また、就職課の松本氏も「1年ほど所属したシステム関連の部署で習得したスキルや自ら学ぼうとする姿勢が今回に繋がったと実感しています。また、システムなどに苦手意識を持つ方の気持ちが分かるからこそ、自身の得た知識を分かりやすく課内に共有することができ、課内全員で協力して就職支援のオンライン化が実現したと感じています」と話す。

前例のない非常事態に、学生のために何ができるかという課題は、大学全体のもの。部署が違っても、同じゴールに向かって、それぞれができることを進めていったからこそ、1年でこれだけの変化を成すことができたのだ。

 

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今後の教育業界におけるDXの動きにも注目

本記事では国際センターと就職課に話を聞いたが、大学全体としては遠隔授業を導入したり、ネットショッピングサイト、Amazonのアカウントを学院で取得し、学生のための食糧支援がワンクリックでできるように欲しいものリストを活用したりするなど、さまざまな取り組みを進めてきた。

オープンに扱った方がいい情報と個人情報に触れるようなケース、それぞれの関わりや目的によって、ツールや活用法は違うが、参考になるヒントがあったのではないだろうか。

生徒や学生にとって、より学びやすい環境を実現するために、今後も教育業界でどのようなDXの動きがあるか、注目していきたい。

ライター:戸田かおり

戸田かおり

福岡市出身&在住。雑誌編集や企業広報、広告制作プロダクションで制作業務を経験し、フリーランスに。雑誌や冊子物のインタビューやブランディング、Webメディアの立ち上げなどに携わる。趣味は、猫、車、ボード&カードゲーム、ダーツ、麻雀。

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