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スマートシティ構想の実現に欠かせない「都市OS」とは?海外や自治体の事例を紹介

「都市OS」という言葉をご存知だろうか。先端技術を活用して持続可能な都市づくりを目指すスマートシティ構想の実現に不可欠なプラットフォームであるが、どのようなものなのかわかりづらいという声も多い。本記事では、都市OSとはどのようなものかわかりやすく解説するとともに、都市OSによって私たちの生活はどのように変わるのか、全国各地で行われている都市OSの実証事業などについて紹介する。

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スマートシティ構想とは何か

都市OSについて考える上で、まず「スマートシティ」とは何かを理解する必要がある。スマートシティを一言で言うならば「社会課題を先進的技術で解決する持続可能な都市」だ。

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2000年代後半頃から注目され始めた概念であり、内閣府は「ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場」と定義している。

つまりIoTAI、ビッグデータなどの先進技術を活用することで、人々の生活がより便利になることがスマートシティ構想の柱である。たとえば、MaaSやオンデマンドバスなどで交通弱者の移動が便利になったり、自動配送やドローン配達によって物流が効率化されたりと、インフラ・環境・経済など生活のあらゆる場面が効率化されるものである。それによって急激な少子高齢化や度重なる災害、人口の一極集中、過疎化による人手不足、インフラの老朽化など日本の都市が抱えるさまざまな課題の解決も期待されている。

スマートシティ構想は、日本各地の自治体で実証事業が行われている段階だ。2012年頃から実証事業が始まり、交通、インフラ維持・管理、観光・地域活性化、物流、健康・医療など多様なカテゴリに分けて各自治体で独自の取り組みが行われている。

たとえば埼玉県さいたま市は「さいたま市スマート推進事業」として、ビッグデータを活用したバスターミナルなどの交通基盤の整理や自動運転やシェア型マルチモビリティの充実などによる交通機能が向上された街「スマート・ターミナル・シティ」を目指すプロジェクトが進められている。自動運転サービスやシェア型モビリティなどの利用データや渋滞情報などを集約し、エリア内の回遊性を向上させる狙いがある。

またスマートシティ構想は自治体だけに限らない。2021年にトヨタ自動車が建設に着手した「Woven City(ウーブン・シティ)」は、AIやロボット技術などを活用して、エネルギー問題や自動運転など交通に関する社会課題の解決に取り組む実証都市で、敷地内では完全自動運転のモビリティだけが走行する道路や住民の健康状態をIoTやAIを活用して確認する機能などが備えられ、2025年から高齢者や子育て世代などが入居する予定だという。

スマートシティを支える「都市OS」とは

実証事業が進むスマートシティ構想において、重要となるのが「都市オペレーティングシステム(都市OS)」である。都市OSとは、交通、エネルギー、物流、医療、金融、教育など都市が抱える膨大なデータを一ヵ所に集積・分析するデータプラットフォームのことを指す。

都市のあらゆるデータをまとめる都市OSによって、自治体が保有するデータや住民個人のパーソナルデータ、統計データなどあらゆるデータを組み合わせて利便性の高い新たなサービスを創出したり、他の都市や企業と連携を容易にできたり、行政サービスの一元化などが可能となり、住民にとってより効率的で快適な社会が実現できる。その一方、さまざまなデータを利活用するため、セキュリティ性の担保やプライバシー保護などは重要な課題となっている。

都市OSのなかでも注目されているのが、欧州連合(EU)が開発した「FIWARE(ファイウェア)」だ。約40種類のモジュールで構成されるプラットフォームで、用途に応じたカスタマイズができたり、ロイヤリティーフリーで利用できたりと非常に利便性が高い。世界の100以上の都市で利用されており、日本国内の実証事業でもいくつかの自治体で採用されている。

日本各地で進む都市OSの実証事業

海外ではアメリカやエストニアなど都市OSの実装が進んでいる地域もあるが、日本ではいくつかの都市で実証事業を行っている段階である。

都市OSのイメージ

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福島県会津若松市は、東日本大震災の復興計画をきっかけとして「スマートシティ会津若松」という取り組みを2011年より推進している。除雪車の位置情報の表示やバス路線情報の最適化、市民情報を集約するポータルサイト「会津若松+」の提供などで市民生活の向上を図ったり、ICT関連企業が集まる街づくりによって雇用促進を目指したりと、少子高齢化社会が抱える「雇用減少」や「税収減少」、「地域活力の低下」などの課題解決を目指している。

香川県高松市は、2017年よりスマートシティ化への取り組みを始めており、都市OSには前述のFIWAREを導入している。とくに注力しているのが水害や巨大地震など大規模災害への対策である。避難所の開設状況や河川の水位などを、Webサイト「高松ダッシュボード」にてリアルタイムで確認できるプラットフォームを構築した。以前は自治体職員が水位や潮位などを目視で確認していたが、現在はIoTセンサーを設置してデータを自動で取得している。

福岡県北九州市は2011年から2016年の間「北九州スマートコミュニティ事業」を行った。次世代エネルギーと社会システムの実証事業によってCO2排出量の削減を目指すもので、自然エネルギーやスマートメーターの利用や電気料金が変動するダイナミックプライシングなどさまざまな取り組みを行い、10%ほどの省エネ効果があったという。

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進まないスマートシティ構想。課題解決のカギは「都市OS」にあり

2012年ごろからスマートシティの実証事業が全国各地で行われているが、規格が統一されていないために、優れた事業が登場しても他の自治体に展開できず、それぞれが独自のシステムを構築しているため拡張性も低く、日本全体でのスマートシティ化がスムーズに進まないという現状があった。

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そこで、政府は2020年3月に発表したスマートシティの設計図となる「スマートシティリファレンスアーキテクチャ」にて、都市OSに関する要件をまとめた。他の都市や企業とスムーズに連携できる「相互運用(つながる)」、幅広い種類のデータを連携できる仕組みをつくる「データ流通(ながれる)」、柔軟に機能拡張や更新を行える「拡張容易(つづけられる)」の3つを挙げ、これらを満たす都市OSを構築することで、スマートシティ化の推進を目指している。

また、2021年9月には各省庁のデジタル化を推進する役割を担うデジタル庁が新設予定であり、これによりスマートシティ化へ弾みがつくことが望まれる。気候危機や人口減少など都市はそれぞれに課題を抱えている。スマートシティの要となる都市OSの構築によって、持続可能なスマートシティの実現が期待できるだろう。

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