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日本のスマートストア事例、今後はフードロスや人手不足など社会課題にも期待

スーパーやコンビニなど購買体験を変えるといわれる「スマートストア」の取り組みが広がっている。海外で店舗を無人化するための技術開発が進み、日本国内でもスマートストアが街中に現れ始めた。デジタルテクノロジーを駆使し、小売業界に革命をもたらすと期待されるスマートストア。そのサービスの仕組みと、導入が広がる背景や具体例を紹介する。

AIカメラや無人レジで新しい購買体験

スマートストアとは、人工知能(AI)IoTといったデジタル技術を活用して省力化、高効率化を図った店舗のことを指す。店舗に取り付けられたAIカメラや商品の電子タグを活用し、買い物客が手に取った商品を管理。支払いする際は、無人レジや専用ゲートをくぐる際にキャッシュレス決済で済ませられるという仕組みだ。短時間かつスマートフォン1つで気軽に買い物ができる利便性に注目が集まっている。企業によっては、「完全無人」の店舗形態を目指しているケースもある。

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スマートストアといえば米国の「Amazon Go」

Amazon GOの外観

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スマートストアが注目されるきっかけになったのは、米国のアマゾン社が運営するレジなし店舗「Amazon Goだ。2016年に自社ビル内に実証実験としてスタートさせたのを皮切りに、米国内各地で25店舗以上を運営している。

専用のスマートフォン用アプリにクレジットカードなど必要な情報を登録すると入店が可能に。店舗に設置された数百台のAI搭載のカメラセンターが利用客を常に追跡。さらに、商品棚の圧力センサーや重力センサーの情報を合わせ、どの商品を手に取ったかを読み取っている。会計するためのレジはなく、ほしい商品を持ったまま改札ゲートをでると、決済が自動で完了。レジのために並んだり、財布からお金を取り出したりすることなく買い物ができてしまうのだ。

Amazon Goだけでなく、海外では米国や中国のスタートアップを中心に、より低コストに導入できるような店舗の無人化技術の開発競争が熱を帯びている。

トライアルのスマートストア、700台ものAIカメラが商品追跡

ファミリーマートのスマートストア店内の様子

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日本の小売業界でもスマートストアの取り組みは進んでいる。先駆者として有名なのが、福岡に本拠を置くディスカウントストア「トライアル」のスマートストア。特徴は大きく2つあり、1つは「AIカメラ」。トライアルグループが開発した独自のカメラAI を搭載。店舗内に設置した約 700台のカメラが商品棚の画像を解析して欠品を検知すると、アラームでバックヤードに知らせてくれる。また、買い物客の動線を把握できるという。

もう1つは、タブレット端末とバーコードリーダーを搭載した「スマートショッピングカート」で、こちらはセルフレジ機能が付いている買い物カートだ。買い物客は専用のプリペイドカードを読み込ませ、商品のバーコードをスキャンしながら商品をかごに入れ、最後に専用ゲートを通過するとキャッシュレス決済が完了する。タブレット端末には、これまでの購入履歴に基づいたクーポンやおすすめレシピなどが出てくるという仕組みだ。

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こうして店舗で集められた在庫情報や購入履歴などのビッグデータは、取引メーカーと共有して分析。より効率的、効果的に買い物客にアプローチすることで、収益増加することを目指している。同社はITの力を活用して「流通業界に存在する年間46兆円のムダ・ムラ・ムリの削減」に挑戦することを掲げている

一方、大手コンビニのファミリーマートは無人決済店舗システムを開発するTOUCH TO GO(以下TTG)と業務提携。2021年3月、東京都港区の丸の内にスマートストアの第1号店をオープンさせた。店に設置されたカメラなどが買い物客が手に取った商品をリアルタイムで認識。支払いは出口付近の決済エリアに立つと、ディスプレイに商品と金額が表示され、電子マネーなどで自分で決済できる仕組みだ。混雑しやすい朝やランチのときでも簡単に買い物を済ませられ、店側はオペレーションコストの削減を狙う。また、オフィスや学校、病院などの空きスペースに出店するマイクロマーケットへの活用を期待している。

生産性が低い小売業界、製造業の6割どまり

小売業界の各社が次々とスマートストアに参入する背景には、労働生産性の低さがある。小売業の労働生産性は1人あたり654万円(日本生産性本部調べ、2017年)で、製造業の約6割にとどまっている。さらに、小売業界にとって人手不足、人件費高騰は喫緊の課題。

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スマートストアはこうした背景のもと、店舗運営コストやオペレーション負担の軽減を目的に、技術開発や店舗導入が広がりつつある。

買い物客にとっては、利便性が高まるメリットがある。コロナ禍で非接触が求められるなか、他人と接触することなく買い物ができる。レジを待つための時間短縮にもなる。

また、ビッグデータによって店側の顧客理解が深まり、購買体験を大きく変える可能性を秘める。パーソナライズ化した情報の発信が可能になり、店内のディスプレイや手元のスマホを通じて、好みに合わせたおすすめやクーポン、レシピ提案をするサービスが広がるかもしれない。

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「食品ロス」電子タグでフードロス問題を解決へ

生鮮食品が並んでいる店内

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国は、深刻な人手不足や生産性の低さという課題だけでなく、フードロス問題の観点からスマートストアに注目している。業界として、サプライチェーン内には多くの事業者が存在しており、全体最適が図られにくく、食品ロスや返品が多く発生しているからだ。

そうした背景から、コンビニの商品に電子タグ(RFID)をつけて在庫情報や販売期限、消費期限をリアルタイムで自動的に管理する実証実験に取り組んでいる。実験の中身は、こうだ。消費期限の短いおにぎりや弁当などに電子タグを付け、期限が迫るとスマホアプリでポイント付与や値引きを行う。消費者に期限が迫る商品を優先的に買ってもらえるように促し、食品の廃棄率の低下や省力化の効果を検証するという。

AIやIoTといったデジタル技術を活用して省力化、高効率化を図る小売業界。買い物体験を変えるだけでなく、社会課題の解決を見据えた取り組みが進む。

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