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今さら聞けない、新しい移動手段「MaaS」とは?わかりやすく解説

MaaSのイメージ

近年「MaaS」という言葉をよく耳にする機会が増えている一方、「MaaSとは、どういった定義のことを指しているのか抽象的でよくわからない」、「電車やバスなどの交通機関がデジタル化しているだけでは?」という声も多く、理解が進んでいない現状もある。そこで今回は移動産業のDXとして注目を集める「MaaS」について国内外の事例をふまえながらわかりやすく解説していきたい。

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MaaSとは?基礎知識からわかりやすく解説

MaaS(読み方:マース)とは、Mobility as a service(モビリティ アズ ア サービス)の頭文字をとったもので、バスや電車、タクシーなどの個別にアクセスしていた移動手段をシームレスにつなぐサービスのことをいう

例えば、カーシェアリング、レンタカー、タクシー、配車サービス、シェアサイクルなど複数の移動サービスを統合し、利用者のニーズに基づいた移動手段の検索から予約、乗車、発券、決済を一括して行うことができるというものだ。

MaaSによって効率的な移動が実現するだけでなく、交通渋滞や駐車場不足の緩和の他、高齢者などの移動困難者や自家用車を持たない人も自由に移動することができるようになり、利用者の利便性が飛躍的に向上するメリットがある。

また、利用が低迷している地方の公共交通の路線数や便数が減少し、さらに利用者が減るという負のスパイラル問題や自動車の排気ガスによる地球温暖化への影響など社会課題の解決や持続可能な社会の実現も期待されている。

次世代型路面電車のライトレール(LRT)海外のMaaS事例を紹介

Raul Mellado- stock.adobe.comまずはMaaSの取り組みが進んでいる海外の事例を紹介したい。他国に先駆けてMaaSをスタートさせているフィンランドでは、2018年に世界で初めてMaaS法となる交通サービス法が可決された。MaaS事業者と情報共有しMaaS社会を実現するために、移動サービス事業者に対して経路や運賃などのデータを提供することが求められている。

フィンランドの首都ヘルシンキに本社を置くMaaS Global(マース・グローバル)社は、月額制で公共交通機関やタクシーなどが乗り放題のアプリ「Whim(ウィム)」を開発し、世界中の注目を集めた。イギリスやブリュッセルなどグローバルに展開し、日本へも2020年に進出し、三井不動産と協業して「不動産×MaaS」の実証実験を行っている。

アメリカ・シアトルでは移動手段の多様化が進み、日本ではあまりなじみのない次世代型路面電車のライトレール(LRT)やバンプール(バン型車両の相乗りサービス)、BRT(バス高速輸送システム)といった多様な移動手段をスマホアプリ「TransitGo(トランジット・ゴー)」がシームレスにつないでいる

電車に乗る女性

rh2010- stock.adobe.com

ユーザーのいる地域で使用できる移動手段を一覧できたり、料金や所要時間、環境負荷など利用者が重視する項目を反映しながら、利用したい移動手段を選択できたりと移動ルートの検索に優れており、チケットレスかつキャッシュレスで公共交通機関を利用することが可能だ。

ドイツ・ベルリンでは、ベルリン市交通局とVia Van(ヴィアヴァン)社が提携してオンデマンド型相乗りライドシェアサービス「BerlKönig(ベルケーニッヒ)」を開始。6人乗りワンボックスカーを使用して、駅から自宅までの「ラストワンマイル」をつなぐサービスで、交通の便が悪い地域の課題解消に動いている。

ドイツでは他にも経路検索、予約、決済をワンストップで行えるドイツ鉄道のアプリ「Qixxit(キクシット)」を2013年より運用。長距離バスや空路での移動手段にも対応しており、国境をまたぐ移動でも利用できるという点が特徴だ。

日本の移動手段も進化していく、トヨタ、西鉄、ソフトバンクのMaaS

続いて、日本国内でのMaaSの動きをみていきたい。国土交通省は2020年に「MaaS関連データの連携に関するガイドライン」を策定。シームレスな移動の実現のための円滑なデータ連携をはかる狙いがある。

経済産業省は、トラックドライバー不足に悩む物流分野の課題解決のために「IoTAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」を立ち上げ、さまざまなデータのデジタル化が遅れている日本の課題をとりまとめている。

MaaSのイメージ画像

metamorworks- stock.adobe.com

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また国土交通省と経済産業省が連携して推し進めるプロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」では、北海道から沖縄まで全国で52の地域が選定され、新たなMaaSのモデルとなりうる事業を選定したり実証実験に取り組んだりしている

民間においてもMaaSに挑む企業は増加している。ソフトバンクとトヨタ自動車が共同出資で設立した「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」は地方でオンデマンド配車システムを導入したり、オンデマンド通勤シャトルバスの実証実験を行ったりと新しいモビリティサービスを創出

中でも注目したいのは、長野県伊那市にて医療機器メーカーのフィリップス・ジャパンと共同で実証実験を行っている「医療×MaaS」事業だ。医療機器を搭載した専用車両に看護師が乗り、配車プラットフォームを活用して患者の自宅を訪れ、遠方にいる医師と繋いで遠隔診療を行う。こうした取り組みは高齢化が進み、医療体制が十分ではない地域の課題解決策として期待されている。

他にもトヨタ自動車は西日本鉄道と共同でMaaSアプリ「my route」を開発し、2018年に福岡県で実証実験を実施。鉄道やバス、タクシー、シェアサイクルなどさまざまな移動手段を組み合わせたルート検索や予約、決済ができるサービスで、駐車場の予約や店舗・イベント情報の検索、西鉄バスのデジタル乗車券の発券なども可能にした。2019年からはJR九州も参画し、福岡市や北九州市で本格的にサービスを開始している。

MaaSに取り組む鉄道会社は多く、JR西日本のMaaSアプリ「WESTAR(ウェスター)」や小田急電鉄が運用するMaaSアプリ「Emot(エモット)」などがある

Emotは混雑予報やリアルタイムの運行状況が経路検索に表示されたり、タクシーやシェアサイクルといったバスや電車以外の移動手段も経路検索に含まれたりと、ユーザーの利便性の向上が謳われている。

すでに「医療×MaaS」や「観光×MaaS」といった事例があるように、今後は交通事業者や自動車メーカーなど移動に関わる業種だけではなく、小売業や不動産業など他業種とモビリティサービスがつながっていくことが予想されている。2050年にはMaaSの市場規模が世界で900兆円にまで達する見込みもある。どの業界においてもMaaSの今後の動向に注目しておきたい。

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