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なぜ?「IT人材43万人不足」、窮地を救う”新卒社員の合同研修

世界的にIT人材の不足が叫ばれて久しい。2018年に経産省が発表したDXレポートによると、2025年には国内でIT人材の不足が約43万人まで拡大する見込みだ。企業はいかにこの問題に取り組むか、その鍵が「新人教育」にあるかもしれない。福岡でIT人材の教育やITコミュニティの支援を行う特定非営利活動法人AIP(以下、AIP)にIT人材の育成について話を伺った。

効果的な新人教育で企業の中堅IT人材不足を補う

特定非営利活動法人AIP マネージャーの河野裕司氏、副理事長 専務理事の柴田健二氏の画像

(左)特定非営利活動法人AIP マネージャーの河野裕司氏、(右)副理事長 専務理事の柴田健二氏

AIP副理事長・専務理事の柴田健二氏は「地方に行けば行くほどIT人材の不足は顕著です。福岡はエンジニアが働きやすい環境を構築するエンジニアフレンドリーシティとして国家戦略特区を活用したさまざまな取り組みを行っていますが、それでも人材は足りていません」と現状を語る。そんな中、DX推進に欠かせないIT人材の育成について頭を悩ませる企業は多い。

AIPマネージャーの河野裕司氏は「ほとんどの企業でIT人材が不足しており、育成しようにも多忙のため研修すらなかなか受けられない。そこでAIPは地場の中小企業向けに独自の合同新人研修を行い、新卒社員をIT人材とするべく育成しています。ゆくゆくは彼らがDX推進を担えるIT人材に成長するでしょう」という。

PCを持たないITエンジニア志望者が増加!新卒世代に対応するAIPの新人研修

社員が話し合う様子(イメージ)

出典:Monet- stock.adobe.com

AIPは2005年より主に福岡市内の中小企業を対象にITエンジニアの合同新人研修を始め、15年間で51社510名に研修を行ってきた。2020年は20社71名が受講。「3ヶ月間という長期間の研修で、会社を越えて”新卒同期”という横のつながりができるメリットは非常に大きい」と河野氏。講師はみな現役のエンジニアが担当し、ITの基礎技術や最先端の専門教育、マーケティングやロジカルシンキングを実践形式で行うなど研修内容は多岐にわたる。

15年にわたって新人研修を担当している河野氏によると、近年IT業界を志望する新卒の傾向と特徴がこれまでと大きく変化しているという。「まず圧倒的に女性が増加しています。研修参加者のうち女性の割合は2015年は19%でしたが2019年には37%と約2倍に。またPCを所有していない人が2割ほど存在するのも新たな傾向です。スマートフォンの登場でITが身近なものとなり、彼らにとってIT業界=スマートフォンとなっています」。

近年の新卒の特徴としては、ITユーザーとしての経験値の高さが挙げられる。幼いころから日常生活で多くのアプリやサービスを使用しているため、UI・UXへの理解度が非常に高い。また、Webサービスやツールの習得度も数年前の新人より格段に速く、面接やプレゼンのような事前に準備ができるアウトプットも得意である。

その一方、コーディング能力は年々低下しており、業務の見える化(課題解決のための施策や仕組み作り)や仕事中に質問をするといったとっさの判断が必要なリアルタイムのアウトプットが苦手な傾向にあるという。そのため、入社後に面接時との印象の違いを感じるケースが多く、「新卒がすぐやめてしまうという声はよく聞かれますが、年ごとの新卒の特徴を知ることで入社後のギャップを小さくすることができます」と河野氏。

新卒の弱点を克服しながら、ITスキルを向上させる教育方法とは

ではそうした特徴を持つ新人にはどういった教育が効果的だろうか。技術面においては、アルゴリズムにつまずくパターンが多いと河野氏は指摘する。「未経験者はアルゴリズムとプログラミング言語を区別できていないことが多く、どちらにつまずいているかさえわかっていません。まずアルゴリズムから言語教育を行うべきでしょう」。AIPの新人研修では、アルゴリズムの学習にScratchなどのビジュアルプログラミング言語が活用されており、成果を 上げているそうだ。

社員の打ち合わせイメージ

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また、コーディング能力低下の原因はリアルタイムのアウトプット力の低さにあると河野氏。「インプットの量が少なければアウトプットはできません。アウトプット力を養成するためには、思考訓練が重要。街を歩いていて何か気になるものを見かけたら、その場ですぐに検索するのではなく、それについて思考し、自分なりに答えを出してみること。そうすることで他者と感情や思考を共有しやすくなり、アウトプット力の向上につながります」。

AIPの新人研修では妄想レポートというフィールドワークを行っている。街に出て、他のメンバーが知らない面白いモノやコトを探して写真を撮る。それが一体何なのか常識を取り払って妄想し、レポートにまとめて発表する活動だ。「フィールドワークをすることで、世の中のさまざまな事象に意識を向け思考するようになります。それはクライアントが何に困っているのかという本質を見抜く力にもつながります」。こうした課題発見力を伸ばすことでDXを推進できるIT人材に成長することが期待できるだろう。

企業を超えてエンジニアがつながるAIPCafe」と
エンジニアカフェコミュニティで成長へ

AIPは新人研修の他にITコミュニティ支援やプロジェクト支援を行っている。多目的交流スペース「AIPCafe」を独自に運営し、福岡市の委託事業として 「エンジニアカフェ(福岡市赤煉瓦文化館内)」の運営も行っている。AIPCafeはITコミュニティのメンバーが集まって勉強会や打ち合わせが行われており、エンジニアカフェにはコワーキングスペースやミーティングスペース、相談窓口などがあり、国内外のエンジニアが集まるイベントも多数開催されている。

福岡は東京に負けず劣らずITコミュニティの数が多く、勉強会などの活動も盛んだと河野氏。長年続くITコミュニティには県外から名指しで仕事を受注したり全国規模で活躍したりする人も少なくないという。「福岡のような地方都市は支社文化で自社に技術が戻ってきづらい環境です。成長したい、もっと学びたいと思っている方はエンジニアカフェなどに足を運び、セミナーやコミュニティにぜひ参加していただけたら」と河野さんは期待を寄せる。

IT人材育成には外部組織の利用を

IT人材育成におけるITコミュニティや外部研修の利用について河野氏は「技術面は独学やOJTで伸ばすことができても、マネジメントやファシリテーション(議論を促したり、問題が可決できるようにサポートする役割)は専門の指導者が必要で自社内で完結することが難しい。AIPのような外部組織を利用し、技術力だけではなくマーケティングのようなビジネス力も鍛えることで、会社の将来を担うコアメンバーに育つことが期待できます」とその重要性を訴える。

また、「外部組織の利用を単発で終わらせるのではなく、継続していく社内の風土作りも必要です。それにより業務改革が進むなどDX推進にも通ずるところがあるのでは」と続ける。

IT人材不足に悩む企業はぜひ自社の新人教育を見直し、DX推進を担えるIT人材の育成につなげていきたい。 

ライター:平川朋子

平川朋子

IT系の出版社を経て、フリーランスのライターに。主な領域はITやBtoB関連。企業のWebサイトやプレスリリース、パンフレットの制作などにも携わっている。