事例 知識

【DX事例】AIは万能ではない。しかし、確実にビジネスを飛躍させる 立役者になる

デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する手段の中でも際立って注目を集める「AI」。今、AIを活用することでビジネスの可能性をどこまで広げていくことができるのだろうか。単なるデータ分析に終わらず、人の感性を学習するAIを開発するSENSY株式会社の代表・渡辺祐樹氏に話を聞いた。

SENSY株式会社 代表取締役CEO 渡辺 祐樹(わたなべ・ゆうき)氏
慶應義塾大学理工学部システム工学専攻、人工知能アルゴリズム研究に注力、公認会計士。卒業後、株式会社フォーバルを経て、IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(2010年4月に日本アイ・ビー・エムと統合)にて戦略コンサルタントとして製造業・サービス業の事業戦略策定、組織再編、業務変革などに従事。AI技術を活用した新規事業開発を得意とし、ファイナンス・会計から成長戦略、業務変革、組織変革、営業・マーケティングなどを経験。2011年カラフル・ボード株式会社を設立、代表取締役CEO就任。2017年11月、SENSY株式会社へ社名を変更、代表取締役CEO現任。

アパレル業界が抱える「在庫」という頭の痛い経営課題を解決
・まずは、事業内容についてお聞かせください。

渡辺:2011年に会社(当時は、カラフル・ボード株式会社)を設立し、2014年にファッション人工知能アプリ「SENSY」をリリースしました。このアプリの特徴は、AIを使って、購買データなどのビッグデータだけでなく、ひとり一人の感性という目に見えず、数字で表すこともできない情報を読み取り、小売業やサービス業における買い物解析を行います。人の感性を読み取って、商品の需要を予測し、廃棄や欠品を減少させることを目的として開発しました。

【関連記事】
なぜ?自走ロボット、AIカメラARグラス…老舗企業がDXに取り組む真の目的

岩田屋三越が逆境を跳ね除け「オンライン接客」を導入、接客のプロが見せる真の力

・AIで感性まで読み取ることができるんですね。

渡辺:AIは、文字や音声などのデータ解析を得意としていますが、私たちは、「なぜそう感じたのか」という部分をひも解いていく感性工学の研究をしています。商品そのものだけでなく、商品の広告、季節や気温、その当時、流行っていた色やブランドといったトレンド情報などの外的要因と、最終的に「買いたい」という行動にまで結びついた内的要因を総合的に捉えて、AIで解析していくのです。

・小売業・サービス業の経営課題解決に役立てているのですね。

ロボットイメージ

出典:phonlamaiphoto- stock.adobe.com

渡辺:在庫を抱える業界ならどこも少なからず、いかに無駄なく売り切るかという命題に取り組んでいます。中でもアパレル業は、気分・好み・トレンドなど感覚的で読みづらい要素が多い上に、シーズンごとに商品を一新していかなくてはなりません。抱えた在庫は処分するにも保管するにもコストがかかります。そして、それらの対応で疲弊してしまったら、本当はエネルギーを費やすべき、売り上げの向上や新規顧客の獲得、既存顧客との関係性構築という、より高いステージに入っていけないのです。ここを解決できれば、業界全体がもっと無駄なく変革できるのではないかと考えました。

DXの目的は大きく2つある

・AIもDXの一つの手法だと思いますが、組織の中でDXを推進する意義やポイントについてどのようにお考えですか。

渡辺:DXという言葉は、とても広く、さまざまな取り組みがあると思いますが、目的は大きく二つあると考えています。一つは、「既存業務の効率化」、もう一つは、「業務の付加価値の向上」です。前者は、現状行われている業務を前提として、より少人数・短時間で実現していくというものです。具体的には、AI技術を使って、RPA(Robotic Process Automation=業務自動化)を進めていくなどの方法が考えられます。経理などのバックオフィス系の業務や会議室予約・見積もり・稟議書など、ある程度定型化されている業務に適しています。対して後者は、現状行っている業務を前提とせず、むしろ現状はさまざまな制約があり、やりたいのにできていない仕事などをデジタルの力を使って実現していきます。

ひとり一人のお客さまに合わせたマーケティングからの販売促進をはじめ、こちらは業種によってさまざまな挑戦ができていくと思います。効率化は、比較的進みつつありますが、付加価値の向上は今後もっと増えていくと期待される部分ですね。

・業務の付加価値の向上は、仕組み自体を変えていく必要がありますね。

渡辺:そうです。私たちも、まさにそういった提案をしています。既存の業務のやり方自体を変えていくのでハードルは高いですが、導入した企業は、お客さまをパーソナライズしていくことができるので、マーケティングやマーチャンダイジングにおいて、それまで以上に細やかに計算された業務プロセスをつくることができます。そうすると単なる効率化だけではなく、売り上げの向上、新規のお客さまの発掘、さらには既存のお客さまとの関係性を高めるなどの波及効果が望めると思います。

これからDXに取り組む企業に、伝えたい入り口とは

・これまで企業と共に取り組んできたご経験から、DXの成功例をお聞かせください。

渡辺:株式会社はるやまホールディングスの販促をお手伝いしていますが、もともと膨大なデータを蓄積して人力で分析をされていて、それをAIでもっと効率化できないかという話から始まりました。「SENSY」を活用し、膨大なデータからお客様ひとり一人の“感性”をAIで解析することで販促DMの送付先や内容、チラシの部数などを最適化していきました。短期的な目標は、需要に合わせた商品供給、在庫をできるだけ残さないこと、それから次の商品企画にも生かすこと、長期的には、お客さま一人一人の感情や背景に寄り添えるサービスを提供していきたいと考えていらっしゃいます。今、それを少しずつ着実に達成されているところです。

やはり何かが解決すると、「次はこういうことをやってみよう」という話になりやすく、意識が高まることで社内にもプロジェクト内にも相乗効果が生まれます。DMイメージ

・これからDXを考えている企業は、どんなふうに第一歩を踏み出せばいいでしょうか。

渡辺:AIやDXはここ数年でよく話に出るようになりましたが、まだ当たり前ではありません。「AIを導入してみたいけど、何から手をつけていいかわからない」という声もよくお聞きします。やり方はいろいろありますが、できるところから手をつけるよりも、最も大きな課題だと感じているところから導入を検討することをお勧めします。

例えば、廃棄ロスや欠品による売り逃し、集客力不足など、具体的な課題を解決できた方が経営的にもインパクトがあります。もちろん、AIは万能で何でも叶えてくれるというものでもないので、専門家の意見を聞き、何ができて、どの部分は難しいか、地に足をつけて実現性の高いことから進めていく必要があります。私たちも、「AIは秀でた得意分野がある新入社員のような存在。だから御社に合わせて育てていきましょう」と啓蒙するように心 掛けています。

・AIの活用には「何を解決したいか」を軸に、計画を立てるのですね。

渡辺:そうです。AIは、記憶力や計算力など秀でた能力があります。その能力をどの業務で生かせるかという議論を重ね、少しずつできることを増やし、ロードマップを描きながら、活躍の場を広げていくのです。社内のひとつの担当部署内というよりは関係部署と横断的に議論をできる方が、よりスピードを持って進んでいく傾向があります。AIのイメージ

【関連記事】
なぜ?自走ロボット、AIカメラARグラス…老舗企業がDXに取り組む真の目的

岩田屋三越が逆境を跳ね除け「オンライン接客」を導入、接客のプロが見せる真の力

地方や中小企業でこそ、活躍の可能性が大きいAIやDX

・地方や中小企業においてのDXの必要性はどうお考えですか?

渡辺:現状、DXもAIもまずは都心部の大手企業から導入が進んでいますが、本当は、中小企業や地方の方が、労働力不足が深刻化しているのかもしれません。そういう場所でこそ活きてくるのがAIやDXだと思います。最初はどうしてもシステムや構造を丸ごと変えていくのに投資が必要なので大手でないと難しい面もあるかもしれませんが、私たちも事例から得られたデータを汎用化し、中小企業でも利用できるプラットフォームを開発して、より多くの方々を支えていきたいです。

・当たり前のようにAIが浸透したらどんな未来が待っているでしょうか?

スーパーで在庫を確認している女性

出典: one- stock.adobe.com

渡辺:数十年前は、小さい商店の主人がお客さまの好みや購買傾向を長年の経験として持っていたと思います。そこから大量消費の時代が来て、またAIで個人にフォーカスしたマーケティングが可能になります。規模は大きいまま、マーケティングやマーチャンダイジング(商品をお客様にきちんと届けるための戦略)の精度が数%向上するだけでも、売り上げや利益の金額としては億単位の成果が出ることもあるでしょう。

小売業・サービス業では無駄のない在庫管理が可能になり、例えばスーパーやドラッグストアでは一人一人のお客さまの需要に合わせて商品を用意することで欠品による売り逃しを防ぎ、食品をはじめとする廃棄ロスの削減にも繋げることが可能になります。消費者の立場から考えると、欲しい時に欲しいものや情報が手に入るのが利点です。

【関連記事】
なぜ?自走ロボット、AIカメラARグラス…老舗企業がDXに取り組む真の目的

岩田屋三越が逆境を跳ね除け「オンライン接客」を導入、接客のプロが見せる真の力

・そうした未来のためにこれから目指すところをお聞かせください。

渡辺:人が生きていく上で触れる全てのシーンをサポートしたいと考えています。教育・働き方・お金の使い方、AIが助けられる分野はまだまだあります。私たちはAIのプロフェッショナルではありますが、さまざまな企業や課題と触れる中で、「こんな使い方もあったのか」と気づかされることも少なくありません。そうしたことを繰り返しながら、より社会を豊かにする一助になれたらと思います。

ライター:戸田かおり

戸田かおり

福岡市出身&在住。雑誌編集や企業広報、広告制作プロダクションで制作業務を経験し、フリーランスに。雑誌や冊子物のインタビューやブランディング、Webメディアの立ち上げなどに携わる。趣味は、猫、車、ボード&カードゲーム、ダーツ、麻雀。

HP http://torakoya.net/