実践 知識

AIを動かせるだけではダメ、DX人材に不足しているのは〇〇編集力

人工知能(AI)やIoTを活用しデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業が増えている。そうした企業の多くが課題としてあげるのが、AIや分析したデータを使いこなせるIT人材の不足だ。DXを成功に導くためには、どのような人材が求められるのか。製造業向けに「AIを活用できる人材」を育成するサービスを始めたITスタートアップ企業の「株式会社スカイディスク」(福岡市)の代表取締役社長兼CEOの内村安里氏に聞いた。

内村安里(うちむら・あさと)氏:ベンチャー企業を経て2003年より株式会社ディー・エヌ・エーへ。マーケティング・広告宣伝部門マネージャーなどを歴任し、2011年末に独立。ゲーム開発会社、家電メーカー、プロスポーツクラブなど、さまざまな業種の事業立ち上げを支援。2019年12月、株式会社スカイディスク代表取締役社長 兼CEOに就任。

なぜ?「DX失敗の理由」が誰もわからない

スカイディスクは2013年創業の福岡市に本社を構えるITベンチャー企業。製造業を中心に200社以上のAI関連の技術開発やAI導入などのDX支援を手掛けている。2020年2月からは、製造業におけるAI人材育成を支援する教育サービスをスタートさせた。その背景には、企業からのAI人材不足を叫ぶ声が多くあったという。

同社がAI活用に関心のある製造会社を対象に AI導入の現状に関するアンケートを実施。すると、検討を含む実績があるのは6割弱。このうち効果を実感している企業は2割に届かなかった。多くの企業が概念実証(PoC)止まりや計画自体が頓挫と回答。その理由として、社内における「AI人材の不足」が最も多く挙げられていた。大企業でさえ「失敗したが、その原因すらわからない」との声もあったという。

「求められるスキルとは…」AI人材に必要な2つの力

なぜ、DXが上手くいかないどころか、失敗した原因すらつかめないのか。

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「まずはAIで何ができるのかが分かっていないと、AIで実現させたい最終的なゴールを描くことはできません」と内村氏は語る。DXやAIという言葉は社会的に浸透してきた。しかし、「AIはなんでもできる」という未来型ロボットのひみつ道具のように捉える企業も少なくないという。そこで、社内に必要なAI人材に求められるスキルの柱は2つあると解説する。

一つ目は「AIで何ができるかを理解している(AIを具現化できる)」
二つ目は「適切な課題設定ができる(AIを活用できる)」
ことだ。

しかし、この2つの柱を持つ人材が社内にいるとは限らない。一つ目のAIに関する知識は書籍やオンライン教育プログラムなどを駆使すれば、自学でも身につけることは可能だ。しかし、二つ目の「適切な課題設定ができる」ようになるのは一筋縄ではいかない。スカイディスクのアンケートでも、AI人材不足に続いて挙げられた悩みが「AIで解決する課題が決まらない」との回答だった。書籍で学んだ汎用的な方法を、どうやって自社の業務に落とし込むか。ましてや、専門分野に特化したような業態を取る製造業では、その課題設定が正しいのか、客観的に判断することはなおさら難しい。スカイディスクの製造業向けAI人材育成サービスは、まさにこの悩みにフォーカスを当てた実践的の教育プログラムになっている。

現場の課題解決をしながら学ぶことができる
スカイディスクのAI研修

スカイディスクの教育プログラムの一番の特徴は、企業が抱えている現場の課題解決をしながら学べるところだ。事前に業務内容や課題、データの有無をヒアリングした上でカリキュラムをカスタマイズしている。

社内エンジニアを派遣し、AI初心者レベルの知識の習得から始まり、AI実装までを見据えた具体的な課題設定をワークショップで学ぶ。期間は2日間~3カ月間。しかも、研修を通じて見つかった課題には、改善策を提案。自社のAI導入についてコンサルティングを受けながら、スキルを身につけることができるのだ。

AI導入ありきでなく、なんのためにAIを活用するのか。あくまでも企業自らが最終的なゴールを描けるようになることが大切です。DXへ自立で踏み出す一歩となることを目指しています」と内村氏は力を込める。実践的な教育プログラムへの関心は高く、6月のオンライン説明会には通常の7倍もの参加申し込みがあったという。教育プログラムを通じて、そのままAI導入の実プロジェクトがスタートした例も出てきている。

AI人材のカギはシステム開発力ではなくシステム編集力

内村氏は、「今後、あらゆる業界や企業においてAIの実装は当たり前になるだろう」と予測する。しかし、必ずしもAIのシステムを自社で一から開発する必要はないともいう。

「プログラミングが不要なAIなど簡単に導入できるサービスは増えていくでしょう。いかに自社に使えそうな技術を拾い上げて、事業に活用できるかを考えられる『システム編集力』が大切になってきます」。

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つまり、AIのシステム開発までは手がけられなくとも、「どういうテクノロジーや既存のサービスを組み合わせれば自社の課題を解決できるか」を考えられるようになる。それが「システム編集力」だという。AIに限らず、さまざまなDX推進に共通していえることだ。

「AIでどんな課題を解決するのか、どの事業に成長エンジンを置くのかは自分たちで考えなくてはいけません。その上で、AIベンダーの私たちのような外部パートナーを見つけたときに、どうハンドリングしていくのか。システム編集力がどの企業にも必要になってくるでしょう」

AIの本来の役割は人間の能力を拡張させること」

社内でいざDX推進の話になると、「AIに自分たちの仕事を奪われる」というような“アレルギー反応”を持つ人も少なくない。しかし、AI本来の役割は、そうではないと内村氏は説明する。「成長の手応えを感じられる仕事は楽しいですし、わざわざ奪う必要はないはずです。AIで人間の仕事を置換するのではなく、いかに人間の能力をブースト(拡張)させていくかだと考えています」と、DX推進企業としての使命を語る。

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また、反対する声もあるときこそ経営層の現場に対するコミュニケーションが重要だと語る。「AIを活用することで、会社はどう良くなるのか。経営層がそうしたメッセージを現場に伝えることが欠かせないと思います。『DXやるぞ』というだけの現場丸投げでは実現できません」。

「日本のものづくりの底上げに」中小企業のDXを推進

いまAI投資ができているのは、資金とビッグデータを持つ大企業の一握りともいえる。このままでは、国内企業の99%を占める中小企業との格差は、ますます広がりかねない。さらに、中小企業では、働き手の慢性的な不足と高齢化という課題がひっ迫している。そうした現状に対し、スカイディスクでは、製造業の中小企業を対象にした、導入しやすい価格帯に下げたAIのソリューションシステムを開発中で、来春ごろのリリースを目指している。内村氏は「DX支援で蓄積してきた知見を中小企業にも広く還元していきたい。少しでも、日本のものづくりの底上げに寄与していけたら」と先を見据えている。

平田紀子

元記者のライター。九州の企業や観光分野を中心に取材やインタビュー、記事執筆に携わる。最近は映像周りのコトを勉強中。