赤煉瓦文化館がIT最先端の拠点?コロナ禍でも福岡のエンジニアが集うワケ
九州一の繁華街、福岡・天神地区の中心部。オフィスビルが立ち並ぶ中に明治時代に建てられた赤煉瓦文化館が残っている。国の重要文化財に指定されているこの建物が、ITの最先端を走るエンジニアの拠点「エンジニアカフェ」となっていることをご存知だろうか。一体どのような場所なのか、運営に携わるマネージャーの寺元力氏と福岡市経済観光文化局 創業・立地推進部 新産業振興課長の上原里美氏に話を聞いた。
目次
「エンジニアが集まる・活躍する・成長する街」を目指す
~エンジニアカフェ設立の背景~
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「勉強会や交流会を行える、エンジニアの活動拠点となる場が欲しい」という声を受けて、2019年8月に福岡市が立ち上げたエンジニアカフェ。
その背景について、エンジニアカフェの運営に携わる福岡市職員の上原氏は「日本全体で人口減少が進む中、社会課題の解決にはテクノロジーの活用が不可欠です。エンジニアはその中核となる重要な存在のため、福岡市はエンジニアが働きやすい街を目指す”エンジニアフレンドリーシティ福岡”事業を行っており、その一環としてエンジニアカフェを設立しました」と語る。
2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」によると2025年には43万人のIT人材が不足するといわれている。「どの都市でもエンジニアの採用に苦労している傾向にあるようです。エンジニアファーストな場を設けることで、福岡市はエンジニアにとって働きやすい街という認識を持っていただき、国内外からエンジニアが集まり、活躍・成長する街を目指しています」と上原氏。
エンジニアなら利用は無料!5G回線や3Dプリンターなど最新設備が揃う
エンジニアカフェには、エンジニアなら誰でも無料で利用できるコワーキングスペースがあり、デスク上には新型コロナウイルス感染防止のためにパーテーションが設置されている。コワーキングスペースはイベントスペースとしても使用されている。他にも試作品をつくるためのメイカーズスペースがあり、5G回線や3Dプリンターといった最新の設備が使用可能だ。何時間でもPC作業に打ち込めることができ、エンジニアの研鑽の場となっている。
その他、エンジニア以外も利用できるCafe&Barや作業に没頭できる集中スペース、少人数で勉強会やセミナーなどを行うミーティングスペースなど、エンジニアが成長できる環境が充実している。
運営を担当するのは、福岡でIT人材育成事業に携わる特定非営利活動法人AIPと株式会社サイノウの2社。専門的なスキルを持つコミュニティマネージャーやハッカーサポーターが複数名在籍して利用者の相談などに対応している。
これまでの利用者数は2万3000名にのぼり(2020年11月時点)、学生から年配者まで多世代が訪れており、会社員やフリーランス、ソフトウェアやハードウェアなどさまざまなエンジニアに利用され、最近では日本で働く外国人エンジニアの利用も増えているという。
※Cafe&Barのフード、ドリンクは有料。
コロナ禍でもエンジニアをサポート、オンラインイベントを開催
エンジニアは一人で黙々と手を動かすだけではなく、エンジニア同士で集まり交流することでより成長できるという想いから、エンジニアカフェでは設立から約1年半の間に200件ほどイベントが開催されており、ドローンプログラミングのコンテストや技術書の読書会、子ども向けのプログラミングイベントなど、その内容は多岐にわたる。
コロナ禍をきっかけにオフラインのイベントは減少し、オンラインイベントの開催が増加したという。日常が変わっていく変化の時代に、エンジニアがテクノロジーで生み出す新しい価値を提示してエンジニアの成長を刺激する目的で「エンジニアフレンドリーシティ福岡フェスティバル2020」を2020年12月にオンラインで開催。2日間で延べ1200名が視聴したという。
エンジニアカフェ・マネージャーの寺元氏は「これまでのオフラインイベントは福岡近郊からの参加者が中心でしたが、オンラインイベントでは関東など他府県からの参加者が増えました。県や国を越えて参加できることがオンラインの魅力なので、今後もさまざまな地域の方に参加していただければ」と語る。
他にもプログラミングを始めてみたい人を対象に学生スタッフが主催した「未経験者のためのJava勉強会」や外国人コミュニティマネージャーが主催するエンジニア同士の知識やスキルを共有するための総合テクノロジーイベント「Hack Fukuoka」など好評を博したイベントが多く、エンジニアコミュニティからイベントの提案を受けることも多いという。
また、エンジニカフェでは、配信用機材の貸し出しや、配信環境のサポートなど、オンラインイベントを開催したいエンジニアやエンジニアコミュニティに向けての支援も行っている。
エンジニア向けの相談会、最も多く寄せられる悩みとは?
エンジニアカフェが開催するイベントの中でも特徴的なものに「エンジニア向け相談会」がある。いつでも相談を受け付けているが、より気軽に相談に訪れてもらおうと「未経験からエンジニアになりたい社会人のためのスキルチェンジ相談会」や「初めての3Dプリンター活用相談会」などテーマを設けて開催している。
相談会を始めたきっかけの1つにコロナ禍があると寺元氏。「緊急事態宣言が発令され、2020年4月から5月中旬まで閉館していました。自粛期間中でもエンジニア間の交流やイベントをオンライン上でサポートできないかと模索し『オンライン・エンジニアカフェ』を開設し、そのトピックの1つとしてエンジニア向けの相談会を始めました」。
最も多く寄せられる相談内容は「これからエンジニアになりたいが、何から始めればいいのか」というもの。異業種からエンジニアに転職したい社会人や文系の学生など、未経験者がエンジニアに興味を持っているケースが多く「こうした相談をされる方は、エンジニアという職業のイメージがぼんやりしている傾向があります。エンジニアになりたいけど何すればいいんだろうという方には、そもそもエンジニアになって何がしたいのか、自分のやりたいことは何か、なぜ興味を持ったかということを掘り下げて一緒に考えます」と寺元氏。
また、就職・転職活動で必要となるポートフォリオ(作品集)の作り方に関する相談も多いことから、ポートフォリオの作り方相談会も定期的に開催している。「企業が何を求めているかを相談者とともに深掘りし、志望分野や企業に合わせて見せ方や内容をアドバイスしています」。
ベテランのエンジニアからは技術的な相談よりもイベントを開催したいという相談が多く、エンジニアカフェの場所を提供して勉強会の開催を支援した事例もある。
エンジニアが新たな一歩を踏み出せる場を目指して
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イベントの開催だけではなく、エンジニアコミュニティの活動も支援しているエンジニアカフェ。そうした人の交流を大事にしていると寺元氏は語る。「知見を共有しあったり、偶然の出会いから何か新しいものが生まれたりするなど、人が集まって交流することはエンジニアの方々にとってプラスになるのではないかと考えます。エンジニアカフェが何かを始めるきっかけとなる場所になってほしい。未経験の方がエンジニアに転身したり、ベテランの方が新しいことに挑戦したりと一歩踏み出す場所となり、ふと困ったときや相談したいときは戻ってこられる場所となることを目指しています」。
また、「エンジニアはアウトプットを大切にしています。エンジニアカフェをアウトプットの場としても利用し、学び成長する場所にしていただけたら」と上原氏も続ける。
学び、成長する機会を提供するエンジニアカフェ。遠方の方はオンラインで、福岡近郊の方はぜひ直接足を運んでみてはいかがだろうか。
※新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態措置期間においては、20時以降の相談などはオンラインで対応。詳細はホームページでご確認ください。
<エンジニアカフェ ‒ Hacker Space Fukuoka ‒>
営業時間:9:00 – 22:00
相談受付時間:13:00 – 21:00
電話:080‐6742‐7231
休館日:毎月最終月曜日(祝休日のときは翌平日)、12/29~1/3
住所: 福岡市中央区天神1丁目15番30号 福岡市赤煉瓦文化館内
URL:https://engineercafe.jp
平川朋子
IT系の出版社を経て、フリーランスのライターに。主な領域はITやBtoB関連。企業のWebサイトやプレスリリース、パンフレットの制作などにも携わっている。
Twitter https://twitter.com/tmkmmmn