教育業界のDX事例「ネット部活、VR水泳」で授業風景がガラリと変化
インターネットの普及が進み、どこでも誰でもでもオンライン授業が受けられる社会になってきた。コロナ禍では、学校現場におけるオンライン対応の有無で、学べる機会の差を生んでしまった。情報機器を児童生徒に配布していない学校・自治体では完全に学べる時間が止まってしまい、子供たちの学びは学校環境や教師側のモチベーションに左右されてしまったのだ。まさに、ICT環境の整備はまったなし。デジタルトランスフォーメーション(DX)が推進されることで、「学校に通わなくても学べる環境」が当たり前になっていくかもしれない。教育業界のDX事例を踏まえながら、新しい教育のカタチを見ていこう。
目次
文科省も教育業界のDXを推進、ICT教育の後れに危機感
子供たちがスマートフォンやタブレット端末を使うのは当たり前の時代。物心つく前からインターネットが身近にあり「デジタルネイティブ」とも呼ばれる。それなのに、日本の公的な教育環境のデジタル化は遅々として進んでいない。こうした背景には、教える側の教師、学校、教育委員会におけるITやデジタルへの理解が進んでいないことが一因となっている。
文部科学省が公表した「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた 公立学校における学習指導等に関する状況について」によると、2020年6月時点で、双方向性型のオンライン指導は小学校で8%、中学校で10%と低調。また、「積極的なICTの活用」が課題だと感じている学校(設置者)は全体の76%にも上った。教育現場のDX化を推進するため、文科省は20年度の補正予算や21年度予算案で、「1人1台の端末」の早期実現やデジタル教科書導入への予算を計上しており、学校のDXを急ぐ方針だ。
ただ、日本のICT教育の後れに対する危機感はコロナ前からあった。文科省が2019年に発表した「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」に、こんな一文がある。
「先端技術は教育現場に『あった方がよい』ではなく、
『なければならない』
「学校現場におけるICT環境の整備は必須である」
デジタル対アナログという二項対立の議論に構っている暇はなく、子供のためにICT環境の整備を加速させたい文科省の本気が伺える。そこにきての新型コロナ。懸念していた課題が一気に表出してしまった。
日本は、AIやビッグデータなどのテクノロジーをあらゆる産業や生活に取り入れることで、仮想空間と現実空間が融合した新しい社会「ソサエティ(Society)5.0」を提唱。政府のデジタル推進の方針のもと、文科省は教育・科学技術分野の「デジタル化推進本部」を立ち上げ、ICT(情報通信技術)教育の推進に本腰を入れ始めている。
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民間企業や海外で進む教育のDXと「エドテック」
出典: insta_photos- stock.adobe.com一方で、広く教育分野を見渡せば、世界的にビッグデータやAIなどのテクノロジーを使い、個人のニーズに合わせた革新的な教育サービスが生まれつつある。これらは「EdTech(エドテック)」と呼ばれる。テクノロジーを使うことで、従来の勉強の仕方がガラリと変えるとされており、近年注目を集めている。ビッグデータを活かし効率的な学習を可能にしたシステムや、VRでの体験学習などのサービスがそれだ。
身近な所では、「N高(ネットの高校)」と呼ばれる角川ドワンゴ学園N高等学校。インターネットと通信制高校の制度を活用し、授業は基本的にオンラインで行う。単位を取るための必須授業に加えて選択授業が充実。自分の学びたい分野を好きなだけ学ぶことができる。さらには「ネット部活」には、eスポーツ部や投資部、ダンス部などがあり、同好会を含めると多岐にわたる。ネットでも満足できる教育環境が好評で、生徒数は開校4年で増加傾向。2020年10月時点で生徒数は約1万6000人にも及ぶ。
また、アメリカの非営利組織「カーンアカデミー」は、小学校〜高校生向けの授業を無料で配信。世界中の誰でも質の高い授業を受けられるとして、約600万人が受講しているという。日本語訳でも見ることが可能だ。
このように、好きなときに好きな場所で「一流の講師」から学ぶことが可能になった。ある意味、リアルな学校へ通う意義、教師が求められる役割が問われる時代なのかもしれない。では、その他の気になる日本における教育分野のDX事例を紹介したい。
【DX事例】VRで教室にいながら海を泳ぐ体験学習
1つは、富士通のVR(仮想現実)による体験学習。VR技術は、先述の文科省報告にも積極的に活用したい技術として紹介されている。その効果として、VRは通常体験できないことをリアルに疑似体験でき、より効果的な学びを得られると期待されている。
富士通は関西学院大学の研究室と共同で、病気と闘う院内学級の子供たち向けにVR体験学習の実証実験を20年2月に実施した。5G通信を使い、沖縄県の美ら海水族館の水槽内に泳がせている水中ドローンで撮影した4K画質の映像をリアルタイムで伝送。VRのヘッドセットをつけた子供たちは、教室から水中ドローンを遠隔操作する。まるで水中を泳いでいるかのような感覚でジンベエザメの餌やりなどの映像体験を楽しんだという。学びのワクワク感を高めてくれそうな技術だ。
【DX事例】学習履歴を見える化し、生徒の英語力アップへ
次に紹介するのは、英会話教室を全国で展開する「英会話イーオン(AEON)」のDX。ICTを活用して、一人ひとりの理解度に合わせた学習アプリを導入した。これは、「アダプタティブラーニング」と呼ばれ、ビッグデータとアナリティクス技術を使い、生徒の学習履歴を分析して、苦手やつまずきを見える化し、効率的な学習をできるシステムとなる。
イーオンのHPによると、分析データを活用することで、個々に寄り添ったレッスンやアドバイスが可能に。受講生の学習モチベーションの維持や向上を図るのが狙いだとしている。英会話教室は社会人の受講生が多く、講座の利用頻度や自学時間、そして英語レベルもかなりの幅がある。こうしたeラーニングシステムを導入することで、社会人の学びに対するハードルを下げ、学び続けるモチベーションにもつながりそうだ。
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ウィズコロナが教育業界のDX推進の追い風に
日本のN高やアメリカのカーンアカデミーなどの事例からもわかるように、民間レベルではICT活用が進んでいるが、公的な学校教育の動きは鈍い。公立学校ではパソコン端末や通信回線などの配備に差があり、パソコンがあってもクラウドサービスにアクセスすることが禁止されている自治体も少なくない。ただ前向きな見方をすれば、コロナ禍は、学校現場や自治体関係者もICT環境整備の必要性を実感する機会なった。教育業界のDXによって、子供たちの学びの場がよりよくなることを期待したい。
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