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「経営者の意志も」企業がDX推進で成功する要因と、失敗に終わる背景とは

国内外でDXの動きが加速していく中、何から手を付けていいかわからない、自社のDXがうまくいかないという声が多く聞かれるが、その原因のひとつに「DXで何を解決したいか」という課題定義の曖昧さがあるという。DX成功の鍵となる「課題定義」のためにはどのような取り組みをするべきか、地方企業のDX推進に携わる株式会社クアンドの代表取締役/CEO下岡純一郎氏に話を聞いた。

下岡 純一郎氏(株式会社クアンド代表取締役CEO)
戸畑高校、九州大学理学部、京都大学大学院卒。P&G、博報堂コンサルティングを経て、2017年より株式会社クアンドを創業。

「町の衰退を目の当たり」地方企業こそDXに取り組みたいが…

福岡県北九州市に本社を構える株式会社クアンドは「地域産業・レガシー産業のアップデート」をビジョンに掲げ、福岡を中心とした地方企業のDX支援事業や現場向け遠隔支援リモートツール「SynQ Remote(シンクリモート)」などの自社サービス開発事業を展開する。

北九州の鉄鋼産業

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かつて”鉄の街”として栄えた北九州市八幡地区で生まれ育った下岡氏。「時代の変化とともに製鉄・鉄鋼業が衰退していく様を目の当たりにし、伝統的な産業が培ってきた長年の技術やノウハウにITを組み合わせて、廃りゆく地域産業をもう一度復興させたいという思いでクアンドを設立しました」と語る。そうして2017年の設立以来、コンサルから技術開発や組織変革までトータルでサポートしながら、DX事業を数々の企業とともに進めてきた。

多くの企業がつまずく「DXの課題定義」

下岡氏はさまざまなDXプロジェクトに関わる中で、多くの企業が人材育成や組織体制、データの確保といった問題に直面していることを実感。中でもDXで解決すべき課題が何かを見極める「課題定義」に多くの企業がつまずいているという。

なぜ多くの企業が「課題定義」につまずくのか、その要因は自社のことを俯瞰して捉えることが難しいからだと下岡氏は指摘する。「ものづくりの部署から”ものづくりを廃止してサービスの部署に変わろう”という意見は出てきません。会社の中にいるとどうしても主観的に課題を捉えてしまいがちです」。

また下岡氏は、「会社の課題とは誰の課題でしょうか?現場の作業員、管理職、経営者とそれぞれの立場で課題は異なるもの。そこで俯瞰的な視点を持つことが重要となります。業界の変化や業界内の立ち位置、会社の全体像などを俯瞰的な視点で見ることで、自社の課題を大局的に捉えることができます。とはいえ、自社のことはどうしても俯瞰的に見づらいため、課題を考える際に外部企業を利用するのも一手です」と俯瞰的視点の重要性を語る。

DXにおける課題定義はプロジェクトの根幹となるもの。「従業員の生産性を上げたい」というような曖昧な課題では最適なソリューションを選ぶことができないため、一歩踏み込んだ課題の設定が不可欠となる。

課題定義のポイントは「目的まで遡る」

では、曖昧な課題を真に解くべき課題へと明確化するためには何が必要だろうか。下岡氏はそのコツを「目的まで遡ること」だという。
階大定義の目的について説明する下岡氏

「わかりやすくダイエットに例えてみると、”痩せたい”という課題があるが、単に”痩せたい”だけでは非常に曖昧で、どんなダイエットをすれば効果的かがわからない。そこで、なぜ痩せたいかという目的にまで遡って考えてみると『1カ月後の結婚式に向けて痩せたい』、『太りすぎて健康のために長期間かけて痩せたい』などと痩せたい理由を明確化できます。それにより、早く体重を減らしたいなら断食、体脂肪を落としたいなら筋力トレーニング…と選ぶべき手段がおのずと見えてくるのです」。課題定義のためには、目的に遡って問題を整理していくことが重要ということだ。

また、下岡氏は「とにかくAIやIoTを使いたいという声も多いですが、それは痩せたいからジムに通いたいと言っているのと同じこと。目的にまで遡って突きつめて、AIで何がしたいかを見極めていくべきでしょう」と続ける。明確な課題設定ができてこそ、最適なソリューションを選択できる。これこそがDXプロジェクト成功の鍵となるはずだ。

DXの実現のための課題定義、実例を紹介

では下岡氏と企業はどのように課題を明確化し、DXを進めていったのか。実際の事例をみていきたい。

福岡県内のとある流通販売業社から「他社ECサイトの影響により店舗の売上が下がっているのをどうにかしたい」という相談を受けた下岡氏。企業側は対策として中古商品の販売やレンタルサービスの開始などアイデアを考えていたものの、何から手をつけるべきか優先順位もわからず困っていたという。

そこで下岡氏は課題定義を見直すことから始めた。まず、売上アップにつながる自社の強みは何か?ということを経営者や現場社員と議論を重ね、「ECサイトにはない、店舗の強みを活かした確たるサービスを持ちたい」という結論に至った。では、ECサイトになくて店舗にある資産とは何か。それは顧客がコミュニケーションに価値を感じて来店してくれている点だ。ただモノを買うだけではなく、店員や客同士の情報交換といったコミュニケーションこそ、ECサイトにはない強みであることを見出した。

こうして、当初は「店舗の売上を上げたい」という曖昧だった課題を「ECサイトにはない、店舗の強みは顧客とのコミュニケーション基盤。オンライン上に顧客コミュニティを形成し、オンラインでもオフラインでも顧客とつながる新規サービスを開発する」へとしっかりと練り上げた。

明確な課題定義ができれば、取り組むべきことはおのずと見えてくる。スマホアプリを制作し、オンラインコミュニティサイトを構築。個人IDでログインする仕組みを導入することで、顧客のデータを取得してマーケティングにも活かせるようになった。クーポンの配信や店舗情報だけではなく、顧客同士の交流や商品のレビューをアップできるようにし、コミュニティ色が強いサイトを目指した。すでにコミュニティサイトへの投稿は数万件におよび、顧客間の活発な交流が生まれている他、顧客の行動データを接客に活かすなど、新規サービス導入の効果は大きいという。

テクノロジーより人材や組織に左右されるDX

社内会議のイメージ

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下岡氏はDXにおいて、課題定義以外にも、経営者の強い意志や現場と技術部門の理解、意味のあるデータが整備されているかなども大切だという。「DXとは経営変革。トップダウンで取り組まなければ進みません。多少の現場の声はかき消して、本当に自社を変えたいという経営者の強い意志が求められます。DXの成功に必要なものはテクノロジーよりも人材や組織体制、文化。新たなビジネスモデルを創出するためには、社員の考え方や行動そのものの変革が必要です。そのためには、DXを任せられる人材を育てる環境や社員が手を挙げられる風土づくりが重要です」。

また「DXを担当する社員には自分が経営者ならどうするかというマインドが必要」と下岡氏。「DXを会社のイチ業務として捉えてもうまくいきません。もし経営を任されたら何をしたいかという理想をわがままに思い描いて、会社のリソースを使い倒すことが大切です。経営者の視点と当事者意識を持ち、自分の信じる道を突き進んでください」。

真に解決すべき課題を見極めるとともに人材や組織体制も整えて、自社のDXを成功に導いていきたい。

 

ライター:平川朋子

平川朋子

IT系の出版社を経て、フリーランスのライターに。主な領域はITやBtoB関連。企業のWebサイトやプレスリリース、パンフレットの制作などにも携わっている。