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災害も農業も物流も!日本を救うドローンの実用化を阻む「空中権の壁」に挑む

空をたくさんのドローンが飛び交い、人や荷物が運ばれるようになる。数年内にあなたの上空が一気に変わるかもしれない。2022年の航空法改正によって「空飛ぶIoT」と呼ばれるドローンは、物流や農業などさまざまな分野で利活用が一気に進み、労働人口不足に悩む高齢社会の一助となることが期待されている。ドローンを飛ばす上空使用権をサブスクリプションなどで提供し世界中の空をシェアするサービス「sora:share」(ソラシェア)を手掛ける株式会社トルビズオン(福岡市)CEOの増本衛氏に話を聞いた。

  増本衛氏

 

増本衛氏:1978年山口県生まれ。下関西高校出身。西南学院大学法学部、九州大学経済学府産業マネジメント学科(MBA)卒業。九州大学地域政策デザイナー養成講座マネージャー。大学卒業後、日本テレコム(現ソフトバンク)に入社。父が経営する人材派遣会社での勤務を経て2014年当社設立、代表取締役就任。映像制作からスタートし、2015年にドローンに出会う。以来、販売代理店・スクール経営などのドローンビジネスを一通り経験。九州エリアの産官学連携組織「九州ドローンコンソーシアム」の創立者・代表理事。

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「空飛ぶ物流」ドローン事業を阻む「空中権の壁」

「sora:share」は、ドローンユーザーと地権者が上空使用権を取引するサービス。ユーザーは地権者が登録した土地の上空でドローンを飛ばすことができ、ユーザーの利用手数料から地権者に使用料が支払われる仕組みだ。

増本氏が「上空使用権」というこれまでにない視点で新しいビジネスモデルを発想したきっかけは、さまざまなドローン事業を行うなかで毎回ぶち当たる問題にあった。

「ドローンを飛行させるには、その土地の地権者の許可が必要です。空撮、測量、インフラ点検などのドローン事業を運営していますが、いつも『ドローンの飛行許可』がネックとなっていました。実用化が予想されている空飛ぶ車や物流といったサービスを事業として提供する場合、物流ドローンのような重量が重いハイリスクな機体を上空に飛ばさなくてはなりません。そのような状況では一層、空路直下の地権者とのコミュニケーションが必要になるでしょう」。

こうして増本氏は上空の使用許可をネット上で自動取得し、地権者に飛行料を支払う空域管理プラットフォーム「sora:share(ソラシェア)」のモデルを2016年に考案した。まず空域取引促進システム「スカイドメイン」のビジネスモデル特許を取得。さらに増本氏も開発に直接関われるようプログラミングスクールに通ってRubyを学び、社員5名とシステム開発の企画を一緒に行ったという。

ドローンの飛行には墜落による事故や火災という物理的リスクと騒音やプライシーの侵害、墜落の不安のような地上に住む人々に与える精神的リスクがある。その一方、自動車のような自賠責制度の義務はない。そこで損保ジャパンと共同で専用の保険を設計し、ユーザーの加入を義務付けた。地権者側を救済する損害保険で1億円を限度に補償される。こうして2018年に空域取引プラットフォーム「sora:share」を世に打ち出した。

今後の課題について「地権者側の空の登録がなかなか進んでいないという課題があります。当然ながら所有地での飛行を許可しないという登録もできるのですが、自分の土地の上空で飛行を許可するかどうかの議論は始まっていません。地上に住む人々は、墜落のリスクは感じられても、空路のイメージはしにくいもの。2022年に予定されている航空法の規制緩和によって多くの物流ドローンが実現すると、空の道を作る必要性を感じていただけるのではないでしょうか」という。

いかに議論を醸成し、ドローンの社会受容性を高めていくかが今後の鍵となる。

上空はデータの宝庫!空のデジタルトランスフォーメーション(DX)に挑む

スカイドメインの画面

スカイドメイン

現在「sora:share」の登録地点は約200ヵ所(2021年1月時点)。目印もない区切りもない空中をどのように管理・登録しているのだろうか。増本氏は「空はどこからどこまでが自分の権利の及ぶ範囲かわかりづらいもの。そこで、緯度・経度・高度の3点を用いてID化した地点を『スカイドメイン』と呼び、空域にタグをつけてデータベースで管理します。『空のURL』という新しい概念を生み出しました」と語る。

スカイドメインは、空価(上空の利用価格)に始まり、その区域を飛行するのに必要なデータや、物流、農業といった利用用途、地権者の情報、飛行の許可・不許可もすべて紐付けてデータベース化し、最終的にはブロックチェーンでの管理を目指している。

実は上空はデータの宝庫。気象や電波状況などさまざまなデータを収集するメリットは大きい。ドローンの用途が増えれば増えるほどデータベースを充実でき、さまざまなビジネスの可能性を秘めていると思います。『スカイドメイン』は空をデジタルで登記していくようなイメージで、空の権利の地図を作りあげる。空のデジタルトランスフォーメーション(DX)です」。
農業分野でドローンを活用している様子

また国際特許の予約権であるPCT国際出願制度も取得しており、アメリカでの展開を目指しているほか、現在進行中のプロジェクトとして、小売・物流業者向けのドローン配送プラットフォームの開発に取り組んでいる。「今はまだ数えるほどしか空の道ができていませんが、今後多くの空の道ができれば、配送ルートの最適化にも関わっていきたいです」。

航空法改正であらゆる業種が「空の事業」に参入!
実証実験時を撮影したもの

ドローン市場規模は年々拡大し、2025年度には約2.9兆円になるという。人口減少が止まらない日本において、ドローンは「空飛ぶIoT」として農業や測量などさまざまな分野での活用が期待されている。こうした流れの中、トルビズオンは複数の地方自治体とドローン配送の実証実験を行っている。

「2019年に福岡市で行った災害対策の実証実験を皮切りに、下関市の過疎地で買い物代行、つくば市で住宅地上空での配送、神戸市では1台に複数の荷物を搭載することに挑戦し、佐賀の多久市で複数の空路開拓とビジネスモデルを進化させながら実証実験を重ねました」。

神戸市でのドローン実証実験

社会課題の解決に役立つとされるドローンだが、ビジネス面ではどうだろうか。ドローンの活用が思い浮かぶのは、農林業、土木工事、測量、撮影などがあるが、それ以外のあらゆる事業においてもドローンを活用し事業に活かせる可能性があると増本氏は語る。

「上空からデータをとればかなり効率化できるため、データを取得するあらゆる事業にドローンを活かせるのではないでしょうか。一方、ドローンでホログラムの立体映像を空中に映し出し、空中をエンターテイメントや広告スペースとして売り買いすることもできるようになるでしょう」。

国土交通省は2022年の航空法改正に合わせて「機体認証」や「操縦ライセンス」といった制度を創設する予定だ。そのため、操縦ライセンスを取得するためのドローンスクールや車検のような機体認証を行うメンテナンス会社が全国各地で生まれることが予想される。

他にもドローンに付帯する事業は数多く生まれると増本氏。「ドローンを安全に飛行させる事業や物流ドローンが発着するドローンポートの管理、荷物の保管・受け取りや燃料補給など、ドローン配送事業ひとつとってもさまざまな事業機会があります。物流だけではなく小売業者やドラッグストア・医療関係者自体がドローンを飛ばすようになり、鉄道や電力など土地を所有するインフラ事業者や不動産会社がポートを開発や土地活用を行っていくでしょう。ドローンによる空の産業革命時代はすぐそこまできています」。

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新型コロナウイルスや災害発生時でも撮影や配送で活躍するドローン

トルビズオンはドローンを使った災害支援のひとつ「災害撮影調査士」の資格養成にも携わっており、増本氏自身も2016年の熊本地震以来、災害調査も行っている。「災害時は人命救助のために特例が発動され、自治体などは飛行禁止区域でもドローンを飛ばすことができます。命を救うため一刻を争う現場において、いち早く空から情報収集をして被災状況を把握できるドローンは災害発生時に活躍しています」。

人口減少による社会課題を抱え、災害大国でもある日本。過疎地域で買い物弱者や医療難民が増加する中で、ドローンが助けになっていくという。非接触や自動配送を可能とするドローンはコロナ禍においても活躍が見込まれ、2020年7月には新型コロナウイルス感染防止のために、オンライン診療後にドローンが処方薬を運ぶ実証実験も行われた。

やがて物流だけではなく『空飛ぶ車』としてドローンが人の移動にも使われるようになるでしょう。騒音や墜落などの問題点を想像し、10年後20年後のことを考え、SDGsの観点からも誰1人として取り残さない空路開発を行い、ゆくゆくは空にも対応したスマートシティを実現したいです」。

“世界中の空を利用可能にする”というミッションを掲げるトルビズオン。物流や農業、災害などさまざまな分野でドローンへの需要は高まっている。増本氏は新しい空を目指し、挑戦を続けていく。

ライター:平川朋子

平川朋子

IT系の出版社を経て、フリーランスのライターに。主な領域はITやBtoB関連。企業のWebサイトやプレスリリース、パンフレットの制作などにも携わっている。