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岩田屋三越が逆境を跳ね除け「オンライン接客」を導入、接客のプロが見せる真の力

2020年は、世界中が新型コロナウイルス一色に染められたと言っても過言ではない。多くの産業が打撃を受け、先の展望に暗雲が立ち込めた業界もあった。生活必需品を売るスーパーやドラッグストアと違い、ラグジュアリー商品やインバウンド需要の割合が高い百貨店もその1つといえるだろう。

しかし、三越伊勢丹グループ企業であり福岡を拠点とする岩田屋本店は、この逆境に負けないようさまざまなデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んだ。その一つとして緊急事態宣言の発令により店舗が休業している間も、LINEやZoomなどデジタルツールを活用したオンライン接客を導入。それまでに築いてきた顧客とのつながりを維持するだけでなく、新しい顧客開拓の切り口ともなるかもしれない。オンライン接客の具体的な施策や、実現までの道のりについて話を聞いた。

コロナ禍で大きな打撃を受けた百貨店の変化

2020年の岩田屋本店は、同年4月7日に発表された緊急事態宣言による外出自粛要請を受け、計1カ月以上もの長い期間、ほとんどの店舗が休業を余儀なくされた。再開してからも客足が急激に戻ることはなく、少しずつ戻っていったという。10月は前年同月期の消費税増税の影響もあって、久しぶりに前年を超える売り上げとなり、11月には前年比96%程度にまで回復した。

しかし、クリスマスやおせち、福袋など、かき入れ時ともいえる年末年始に再び自粛ムードが高まり、大きな打撃を受けた。2020年4月から2021年3月までの1年間は、前年よりも大幅な売り上げダウンが見込まれている。

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(左)株式会社岩田屋三越 総務・経営企画部 経営企画 マネージャー 重松 優作氏、 (中央)お得意様部 企画管理担当スタッフ 脇田 由子氏、(右)営業本部 顧客マーケティング担当マネージャー 久佐木(ひささき) 健次氏

(左)株式会社岩田屋三越 総務・経営企画部 経営企画 マネージャー 重松 優作氏、(中央)お得意様部 企画管理担当スタッフ 脇田 由子氏、(右)営業本部 顧客マーケティング担当マネージャー 久佐木(ひささき) 健次氏

店舗営業が再開してからも、以前とは違うスタイルで接客等を行ういわゆるニューノーマルが求められた。入館時に検温やアルコール消毒を義務付け、マスクなしの入店はお断りし、出入り口やトイレの利用制限、化粧品のタッチアップ(美容部員が顧客の肌に触れ、商品を使ってメイクをしながら、商品の魅力を伝えたり、アドバイスをしたりすること)や、食品フロアにおける試食サービスも基本的に行わない。物産展などの大型イベントも2019年10月を最後に1年以上開催していない(21年3月から再開)。

コロナ禍以前にDXに取り組み、業務効率化を実現

しかし、できなくなったことや落ちてしまった売り上げを呆然と見ているわけではない。実は、三越伊勢丹グループや岩田屋三越ではコロナ禍以前からすでにDXの動きを始めていたのだ。

聞けば、2018年頃から全社のパソコンやシステムを一新し、社内クラウドの整備を完了。さらには、これらに対応したスマートフォンも配布するなど、じっくり時間をかけて変革を進めてきた。これにより、店舗・部署の垣根を越えて、シームレスに情報のやり取りをすることが可能になり、パソコンで行う業務をスマホでも進めるなど、業務効率化が実現できていた。

DX施策①お得意様への接客・提案にLINEワークスを導入

こうした社内の業務改革を経ていたおかげで、LINEやZoomを活用したオンライン接客の導入もスムーズに進んだ。あくまでも社内で進んでいたDXを接客にも取り入れようと最初に動き出したのは、いわゆる“お得意様”を担当する部署だった。お得意様部企画管理スタッフの脇田氏曰く、「緊急事態宣言中で店舗の営業がストップしていた期間のお得意様の接客に、以前から導入しようと思っていたLINEワークスを取り入れました。お得意様は担当のスタッフとの関係性ができていて、どんなものを求めていらっしゃるかというデータの蓄積があるので、店舗が開いていなくてもSNSやLINEを通して的確なご提案をすることが可能でした」。

セールス担当者が顧客にSNSやLINEで画像や動画を送り、時にはFaceTimeで顔を合わせて会話もしながら、一人一人に合わせた提案をする。普段からニーズや購買行動を把握しているため、買い上げ率も以前と変わることなく購買につなげることができた。最終的に買ったものを届けるやり方としては、店内でピックアップした商品を配送する必要があった。休業中の店舗が多いため、出社している人員も少なく、担当外のスタッフも手分けしながら業務を進めたという。結果的に、お得意様部の売り上げは緊急事態宣言中も大きく下がることはなく、支えとなった。

DX施策②各店舗もLINEを用いたオンライン接客&電話注文を導入

お得意様部に続き、岩田屋本店の自社編集ショップや各ブランド店舗もLINEを使った接客を取り入れ始めた。すでに店舗の営業は再開していたが、密を避けるために来店回数や時間を減らしたいという考えとも一致し、顧客からも喜ばれたという。

顧客マーケティング担当・マネージャーの久佐木氏は、「これまでは店舗に多数のお客様がいらした場合や、接客中でお電話が取れない場合、お待たせすることもありました。しかし、LINEなら24時間お問い合わせを受けることができます。スタッフも、時間が空き次第、お答えすることができるのでお客様のご負担を減らすことができ、一石二鳥でした。また、何度も来ることが難しい遠方のお客様に対して、電話では伝えることが難しかった情報を、画像や動画を交えて説明することが可能になりました。お友達登録をしていただいたお客様に、DMやパンフレットよりも早く新着情報を届けることができるのも大きなメリットの1つといえます」。

MIカード顧客は、電話注文で番号を伝えれば決済もスムーズ。今では50以上のブランド店舗も、このLINE接客を活用しているそうだ。

DX施策③各種デジタルツールを使い、社内の情報連携も

顧客とセールス担当は、LINEを使ってやり取りをするが、社内の情報共有ツールはマイクロソフトのTeamsを活用している。チャットやWeb会議はTeamsで行い、同じくマイクロソフトのクラウドOneDriveを使うことで、データ閲覧・共有のスピードや効率が飛躍的に向上したそう。セールス担当は全員がスマホを携帯しており、上記のツールを活用することで外出先でもスムーズに業務を行うことが可能となった。

また接客面においても、セールス担当者からの質問や、バイヤーからの回答は、Teamsで行っている。例えば、「30代男性が、女性の誕生日に明るい色のバッグを探している」など、顧客の年代や性別、購入目的などを投げると、早ければ20分ほどで複数のアパレル担当バイヤーから写真付きの提案が集まってくる。それをもとにセールス担当者はLINEで顧客におすすめの商品を提案することができる。

デジタルツールを使うことで圧倒的に違うのは、スピード感と情報量だろう。顧客・店舗の両方にとってメリットが大きいため、コロナ禍以後もこのスタイルは続けていく予定だそう。

DX施策④LINEとZoomでランドセル購入までの来店回数と時間を削減

ベビー・子供服用品では、同じ時期に購入が集中するランドセルについてもLINE接客を取り入れ、「LINEでZoomでラン活2021」を実施した。まずは顧客の要望をチャットで聞き、それに合う商品を探し、写真や動画でサイズ感や色などを伝えて提案。ある程度、欲しい商品が絞れてきた段階になると、Zoomを使ったオンライン接客(要予約)を行う。

emma- stock.adobe.com

例年、ランドセル購入までには数回来店する顧客が多かったそうだが、これらデジタルツールを活用したことで来店回数と時間を大幅に削減することができ、感染予防にも寄与した。現在LINEワークスでの対応後、来店という流れが多いが、今後は、Zoomで、離れたところに住む祖父母も合わせて3世代で同時にランドセルをご覧いただき商品検討にご活用いただきたいと思っている。

DX施策⑤自社スタジオでバイヤー自ら動画プロモーション

これまでになかった新たなプロモーション手法として、本社に撮影用のスタジオを設け、商品の魅力やバイヤーのプレゼンテーションを発信できる環境を整えた。


岩田屋三越 Youtubeチャンネル 

これは以前から導入しようとしていたもので、コロナ禍に背中を押されて、スピーディーに実現できた施策だったそう。店舗営業を再開した後も、化粧品フロアではタッチアップができなくなり、商品の魅力を伝える時間や手段に制限が出てきてしまった。そこで、何か別の伝え方ができないかとスタジオを設置することに。ここでは、商品を選んできたバイヤー自らが出演し、商品の魅力や使い方を伝える動画を撮影して、InstagramやYouTubeで発信しているそうだ。

この発信はアーカイブされ、顧客は好きなタイミングで情報収集ができる。複数のブランドや商品を空いた時間にチェックし、購入は電話でのMICARD電話注文や代引注文、または買うものを決めて来店すればいい。

コロナ禍に背中を押され、新しいチャレンジ

この1年、予期せぬ状況の中で、新しいチャレンジを進めていくこととなった。それらを成功させるために心掛けたのはどんな点だったか、またデメリットはなかったのだろうか。

総務経営企画部・マネージャーの重松氏は、「コロナ禍以前にすでにDXを進めていたのが功を奏しました。Teamsを使ったチャットやWeb会議、クラウドを使った情報管理は社内では当たり前になっていたので急激な変化という感覚はありませんでした。またLINEも使っている人が多いツールなので、お客様も含めて障壁を感じることは少なかったように思います。コロナ禍がなくても近々やろうとしていたことが、加速しただけなので、従業員も会社の向かう先ややろうとしていることを理解し、共に進めることができました」と振り返る。

一方、現在進行中の課題や、成否を分けるポイントについても尋ねると、「組織が一丸となって取り組むスピード感は欠かせない要素」と重松氏。DX導入自体のデメリットはないが、トップの決定スピード、担当チームへの他部署の理解や協力、変化への対応力がないと導入時の人的・時間的・金銭的コストがかさみ、難しい場合もあるだろうと話す。

同社でもITツールやシステムを一新する際の研修はもちろん、写真や動画撮影スキルの向上や、対面接客とは違うLINE接客スキルについての研修や情報共有には力を入れてきた。また、若い世代にはデジタルツール導入の推進、社歴の長いスタッフには顧客との関係性構築など、それぞれの得意分野を生かせるよう新人とベテラン人材を組み合わせるバディ制度を取り入れるなどした。

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自分たちの強みや価値を見失わず、デジタルを活用して柔軟に変革

百貨店にとって、2020年は思いも寄らない社会の変化で急な変革を余儀なくされ、強い逆風が吹いた1年だった。

しかし、倒れることなく自分たちの強みは何かを組織全体で見つめ直し、今だからできることに注力し、着実に進める実行力があった。百貨店は、元来ただの物売りではない。国内外から本当に良いもの、上質なものを集めてくる目利き力、一流の接客スキルなど、付加価値は多い。

店が閉まっても目利き力や長年培ってきた顧客とのつながりは損なわれない。接客についてもデジタルツールを使うなどやり方を変えれば、価値そのものが減るわけではない。意識とやり方さえ変えれば、自分たちの価値を研ぎ澄ませていくことだってできるのだ。時代や社会、顧客が変化するならその消費行動に合わせた動線をつくり、自分たちの価値を提供していけばいい。逆境をターニングポイントとし、柔軟に変革を遂げる良い事例を見せてくれたのではないだろうか。

ライター:戸田かおり

戸田かおり

福岡市出身&在住。雑誌編集や企業広報、広告制作プロダクションで制作業務を経験し、フリーランスに。雑誌や冊子物のインタビューやブランディング、Webメディアの立ち上げなどに携わる。趣味は、猫、車、ボード&カードゲーム、ダーツ、麻雀。