女性のタブーが「ビジネスチャンス」へ、フェムテック市場に投資家が注目するワケ
新しいテクノロジーで、妊娠や月経、婦人科系の悩みなど女性特有の健康問題に応えるサービスや商品開発に注目が集まっている。これらは「フェムテック(Femtech)」と呼ばれる市場で、2025年には約5兆円産業にまで成長するとの見方もある。まだ聞き慣れない人も多いかもしれないフェムテックという言葉だが、日本ではどのようなサービスがあるのだろうか。
フェムテックの定義とは?
フェムテック(Femtech)は、female(女性)と technology(テクノロジー)を掛け合わせた造語。女性が抱える身体とこころに関する悩みを、新しいテクノロジーで解決し、女性のQOL(生活の質)を上げようという製品やサービスのことを指し、今注目を集めている。
2013年ごろから、欧州で使われ始めたとされているフェムテック。製品・サービスは多岐にわたり、妊娠や不妊、月経、婦人科系の疾患、更年期、そしてセクシャルヘルスなどがある。
経済産業省の調査によると、生理に伴う体の不調による労働損失や通院、医薬品購入にかかる経済的負担は約7000億円にも上るという。社会での女性活躍が増え、ライフスタイルも多様化する中、女性の健康管理が重要性を増していることがわかる。
そこにフォーカスしたのが、フェムテック。世界でも数百社が関連サービスを手がけ、日本でも2019年ごろからフェムテックという言葉がメディアに取り上げられるようになった。
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女性特有の悩みにフォーカスしたサービス
フェムテックの身近な商品を挙げると、生理日を管理するアプリ「ルナルナ」がある。生理開始日や終了日などを入力して生理周期を管理し、次の生理開始日や排卵日を予測するサービスだ。
モバイル・コンテンツを手がける「エムティーアイ」が開発したもので、フェムテックという言葉がまだ登場していない2000年から携帯電話向けにサービスを始めた。生理といっても経血量や周期など個人差が大きく、自分の経血量や体調、PMS(月経前症候群)の記録ができ、自分特有のバイオリズムの傾向をつかめると人気を集めた。
2020年11月時点でアプリの累計ダウンロード数は1600万超。近年は、蓄積されたユーザーのビックデータを活用し、独自の予測アルゴリズムで排卵日を予測する。
生理日管理ツールにとどまらず、医療機関と連携した研究も進めている。不妊治療を受けた女性1万人超のデータを集め、個人ごとに最適な不妊治療を提案できるAIの開発も進めるなど、女性の健康全般のサポートを目指している。
資金調達で事業化目指すスタートアップが増加
フェムテックは、スタートアップ系の企業による製品やサービスの開発が中心となっており、日本でも投資家や大企業から資金調達して事業化を進めている会社も増えている。
フェムテック分野で資金調達を行った2社を見ていこう。2019年、約9.3億円の資金調達に成功した「Lily MedTech(リリーメドテック)」社は、女性に負担の少ない乳がん診断装置の実用化を目指して、超音波を使用した乳房用画像診断装置を開発。もともと乳がん検診は乳房をふたつの板ではさみ、圧迫して撮影する「マンモグラフィー」が一般的だが、検診の際に苦痛を強いたり、乳房によっては検査精度が落ちてしまったりする点が課題ある。
そこで同社は、リング型の超音波を用いた革新的乳がん用画像診断装置の開発。超音波を使うことで痛みや被ばくのリスクがなく、自動で乳房を3次元スキャンすることが可能で、正確な画像で診断精度を高めることができるという。2019年に約9.3億円、2020年には約2.4億円の資金調達を行ない、市場販売を目指している最中だ。
女性のエンパワーメントを掲げる企業「BLAST(ブラスト)」は、生理用ナプキンを付けずに洗えば繰り返し使える生理用吸水ショーツ「Nagi」を販売。女性のニーズに応える商品の性能はもちろんのこと、使い捨てではない環境に配慮したサステナブルな観点からも注目を集め、開発と販売体制強化のため数千万円の資金調達を実施した。
「フェムテック」は投資家や大企業も注目の成長市場
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では、なぜ投資家や大企業からの投資が増えているのか。日本では認知がまだまだ低いフェムテックは、世界では伸び盛りの成長市場だ。アメリカの調査会社によると、フェムテック市場への投資額は、2019年時点で約630億円。10年前と比べると20倍超に膨らんでいるという。参入企業数は200社を超え、その多くは女性起業家が占める。ベンチャーキャピタル(VC)や大企業の投資は増え続けており、2025年には市場は約5兆円にまで広がるとの予測もある。
背景として、世界的なムーブメントとなった「#me too」運動のように、ジェンダーギャップ問題に対する意識の高まりが影響しているといわれている。女性の社会的地位の改善を求める機運が高まるなか、これまでタブー視されていた女性が抱える特有の問題がオープンな場で議論されるようになってきているのだ。フェムテックは、女性特有の心身の悩みを可視化し、社会課題として共有する役割も果たしている。
また、デジタル技術の発展も大きい。ウエアラブル機器などデジタルデバイスによって、一人ひとり違うバイオリズムや体調に対し、細かく科学的に対応することが可能になったからだ。集まったビックデータやAI(人工知能)の活用は婦人科系疾患の研究や治療、予防にもつながる可能性もある。そのため、国もフェムテックに注目。社会課題の解決を促進する事業と認めた企業に対して、補助金を出している。こうした国の動きに対して市場期待値は高まり、ベンチャーキャピタル(VC)などから投資が増え続けている。
世界と比べると、日本のフェムテック市場はまだまだ限定的だ。それは、ジェンダー格差が大きい日本の現状とは無関係ではないだろう。国別に男女格差を数値化したジェンダーギャップ指数(2021年発表、世界経済フォーラム)の調査では、調査対象156カ国中120位(前年121位)、主要7カ国(G7)では最下位と、大きく遅れをとっている。女性が働きやすく、生きやすい社会になるためには、女性特有の問題に終わらせるのではなく、企業や男性の理解が欠かせない。フェムテックが広がっていくことは、ジェンダーギャッップの大きい日本社会の変革にもつながるのではないだろうか。
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