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書籍レビュー「DXの思考法」「マーケティング視点のDX」などDX推進に役立つ3本

「デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいるが、成果が出ていない」、「DXを進めたいが適切な人材がいない」など自社のDXに行き詰まりを感じている声は多い。そこで今回はDXの推進方法に悩みを持つ企業やDX推進担当者におすすめの3冊の書籍を紹介する。

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DXの本質をつかみたい方におすすめ「DXの思考法」

DX関連書籍の中でとくに注目を集めている本書。著者の西山圭太氏は東京大学未来ビジョン研究センター客員教授で、福島第一原発事故に関する東電再建電力の小売の自由化などを進める電力システム改革などに携わるなど日本の経済・産業システムの第一線で活躍を重ねてきた人物だ。

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「DXの本質とは何か」ということに迫った本書は、現在は企業やビジネスのみならず社会のあり方までも大きく変わる転換期であるインダストリアル・トランスフォーメーション(IX)時代」だと主張する。IXとは直訳すると「産業の変革」、つまりDXが小手先の業務効率化のような小さな話ではなく、産業構造全体や世界のありようを全く新しいものに変える可能性を持つものであると説き、デジタルの歴史を大局的に俯瞰しながら、ネットフリックスやアリババといった企業の事例を豊富に紹介した上で、IX時代に求められる思考法や視点の持ち方伝授している。

“IX時代の歩き方。それは、白地図を理解し、本屋にない本を探すことだ。同時に、白地図の上を歩くにはコツがある。それが「発想」「ロジック」であり、それを身につけているかどうかが、我々の白地図の上での行動の成否を左右する。そしてその「発想」「ロジック」は、これまでのカイシャやタテ割りのロジックと相容れない。”(第9章「トランスフォーメーションの時代」より)

あなたがIX時代を生き抜く「発想」のスキルを身につけているかどうかは、本書にある3つの問いに答えるだけで確認できるため、ぜひ試してみてほしい。本書を読むことで、DXの本質をあますことなく把握でき、IX時代を生き抜くための正しい思考法を得られるだろう。DX担当者必読の一冊であると強くおすすめする。

<書籍の詳細>
・書籍名:DXの思考法 日本経済復活への最強戦略
・著者名:西山圭太、解説:冨山和彦
・発売日:2021年4月15日
・価格:1650円(税込み)

DXがうまくいかないと悩む方におすすめ「マーケティング視点のDX」

続いて紹介するのは2020年10月に発売された「マーケティング視点のDX」だ。著者の江端浩人氏は、伊藤忠商事や日本コカ・コーラ、日本マイクロソフトなど名だたる企業で活躍し、現在は企業のDX推進や次世代デジタル人材の育成に尽力するマーケターだ。

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本書では、DXの成功には、DXに関わるメンバー全員が「マーケティング視点」を持つことが重要であると主張している。

マーケターではない技術者やビジネスサイドの人材が、マーケティング視点を持ちながらDXを進める具体的な方法や実際に成功している企業の事例を豊富に紹介しており、本書を読むことですぐにマーケティング視点のDXを進められるようになっている。DXに取り組んでいるもののうまくいっていない企業や担当者におすすめの1冊だ。

では、マーケティング視点のDXとは具体的にどのようなものだろうか。

”マーケティング視点は、商品・サービスにお金を払う消費者側の目線で見ることを意味します。消費者の立場になって、商品やサービスの必要性や重要性、「提供価値」「ベネフィット」と呼べるものは何かを追求する必要があります。”(第3章「マーケティング視点のDXの4Pとは」より)

マーケティング視点とはユーザー側の視点に立つことであり、消費者のニーズを顕在化するためにマーケティングの手法が活用できる、というのが著者の主張である。

本書では、マーケティングの戦略立案に欠かせない「4P」と呼ばれるフレームワーク(Product,Price,Place,Promotion)になぞらえて、マーケティング視点の4Pを提唱している。

①Problem(課題)
②Prediction(未来予測)
③Process(改善プロセス)
④People(人の関与)

マーケティング視点の4Pをくわしく解説するだけではなく、第5章「今日からできるDX2.0」では、4つのPそれぞれにワークシートが設けられ、設問に答えて書き込んでいくだけでDX推進に役立つツールが出来上がる内容だ。

さらに第6章「DX2.0を理解するための重要キーワード」ではOMOやD2C、XaaSなどDX担当者がきちんと理解しておきたいキーワードの解説にしっかりとページが割かれており、DX担当者の手元に置いておきたい1冊となっている。

<書籍の詳細>
・書籍名:マーケティング視点のDX
・著者名:江端浩人
・発売日:2020年10月19日
・価格:1760円(税込み)

DXを任せられる人材がいないと嘆く方におすすめ「DX人材の教科書」

最後に紹介するのが、「文系こそDX人材になれる」と謳う「DX人材の教科書」である。これまでに3000社以上にヒアリングを行い、DX人材教育サービスを提供する株式会社STANDARDの代表取締役CEO石井大智氏と代表取締役CTOの鶴岡友也氏の共著で、DXに失敗してしまう原因やDXを成功させるチームの作り方などを事例を交えながら解説しており、本書を読めばDX人材の育成方法やDXを成功させる組織の作り方が理解でき、実践できる内容となっている。

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著者は480社以上の企業のDX推進を支援した経験から、DX成功のためには「ビジネスサイドの人材がDXリテラシーを身につけること」という1つの答えを導き出した。

”「こんなにAIエンジニアを育てているのに、なんでプロジェクトが成功しないんだろう?」担当者にヒアリングを重ねたところ、原因はプロジェクトの「体制」にありそうでした。(中略)エンジニアだけでプロジェクトの企画を考えると、どうしても企画内容が技術に偏りがちです。「誰がどんな課題を持っているのか?」というビジネス視点が不足していたせいで、プロジェクトの実行面もうまく進んでいなかったのです”(第1章「DX人材なしでは、今後のビジネスは成功しない」より)

技術者だけではなく、DXリテラシーを身につけたビジネスサイドの人材を育てることが鍵になると著者は言う。

では、DX人材にはどのようなスキルや知識が必要となるのだろうか。第6章「必ず身につけるべきアジャイル型マインドセットとは?」では、スキルや知識よりも、まずDX特有の物事の見方や考え方である「アジャイル型のマインドセット」が求められることを説いている。

”開発手法の1つであるアジャイルとは、小さなサイクルで実装とテストを繰り返して開発を進めること。(中略)アジャイル型の方が深く術性の多いプロジェクトを素早く、効率よくコントロールすることができるからです。”(第6章「必ず身につけるべきアジャイル型マインドセットとは?」より)

不確実なことが多々発生するDXでは、予期しない出来事に臨機応変に対応できるマインドセットが最も重要であるとし、具体的には「顧客への付加価値だけを追求する」、「スピード感を持った仮説検証」、「チームでの学習を重視する」という3つのマインドセットについて深く説明している。

さらにDX担当者のみならず、経営者・管理職やエンジニア、プロジェクトマネージャーとそれぞれの立場で必要なマインドセットについても解説している。会社全体でDXを推し進め、成功に導くためのヒントがたくさん詰まっている1冊だ。

<書籍の詳細>
・書籍名:デジタル技術で、新たな価値を生み出す デジタル人材の教科書
・著者名:石井 大智・鶴岡 友也
・発売日:2021年4月30日
・価格:1650円(税込み)

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3冊ともに共通して見られたのが、日本企業のDXへの切迫感である。世界的に見て日本のデジタル化は大きく遅れをとっており、DXにおける企業間の格差は今後数年でますます大きく広がる可能性が指摘されている。2025年の崖も目前の今、大きな転換期を前に焦りを感じる方はぜひこの3冊の本を手にとっていただきたい。

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