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DXの最新事例が満載!福岡発オンラインイベント「FUKUOKA DX WORLD」レポート(後編)

福岡発地域最大級オンラインイベント「FUKUOKA DX WORLD」が2021年11月8日〜12日に開催された。福岡発のデジタル関連イベントを行うことで、地方企業の変革につなげる目的で催された本イベント。後編となる本記事では、DXを進める上で不可欠なDX人材の採用に関する課題や解決方法が討論されたセッションを4本ピックアップしたい。DX人材が地方企業でどのような取り組みを行っているのか、また活用方法や戦略についてお伝えしたい。(前編はこちら

地方企業がDX人材の採用を成功させる方法とは

11月11日に開催された「求人データから見るデジタル人材需要と実態 」では、人材業界向けの事業支援を行う株式会社フロッグの菊池 健生(きくち たけお)氏と大都市圏のハイクラス人材のUIターン支援を行う株式会社YOUTURNの高尾 大輔(たかお だいすけ)氏が登壇し、地方企業におけるDX人材の採用事情について意見を交わした。

(株式会社フロッグ ・菊池氏)

株式会社フロッグ ・菊池氏)

近年、地方でDXに取り組む企業が増えており、それに伴ってDXの人材の需要も増加傾向にある。令和3年版情報通信白書によると、DX推進の課題として「人材不足」を挙げる企業は53%にものぼる。高尾氏は地方のDX人材の求人状況について「デジタル人材の需要は福岡や他の地方都市でも加速しています。大企業でもベンチャーでも、DXのような変革を担う人材が求められていますが、地方の経済圏にはそういった人材が少ない上にあまり転職もしないため、動きが少ないのが実情です。そこで大都市圏からお金をかけて採用を進める流れが起きています」と現状を語った。

菊池氏は「地方では採用側の企業の情報発信量が不足しています。DX人材が不足している中で採用を成功させるには、企業は自社のビジョンを発信することが重要です。採用激戦区の東京では、会社として何を大事にしているかを打ち出している企業が多く、企業のビジョンを発信できる求人SNS『Wantedlly』を利用している企業も東京に一極集中しています。地方企業こそ東京の採用手法を学び、ビジョンの発信を進めていくべきではないでしょうか」と言う。

高尾氏は「福岡の企業は、会社の魅力よりも福岡という土地の魅力を訴求する傾向にあります。しかし、東京の企業がリモートワークを進め地方在住を認める事例が増えており、地域の魅力だけでは人材をとれなくなりつつあります。地方の企業を検討する人材は年収だけではなく、価値観を重視しています。企業のビジョンに共感し、自分の力を投入して貢献したいと思ってもらえるかが大切です。地方企業こそビジョンや理念、共感を引き出す情報発信が大切になるでしょう」と企業がビジョンで訴求する重要性を訴えた。

(株式会社YOUTURN・高尾氏)

株式会社YOUTURN・高尾氏)

菊池氏は「 求人広告だけを出せばいいという時代は終わりましたね。音声コンテンツやTwitter、YouTubeなどストックできるコンテンツで企業のファンを作っていくことは大切です」と情報発信を工夫する必要性を説き、高尾氏も「たとえば社長が想いを伝える音声コンテンツを作成すれば企業のストーリーが伝わるのではないでしょうか。歴史を紐解けば、情報があるところに人が集まります。地方からどれだけ情報発信できるかで人の流れが変わると思います」と締めくくった。

自宅に居ながら海外でインターンシップ?果たしてその手法とは

11月12日開催の「DXとワカモノ」では、オンライングローバル教育事業を展開するタイガーモブ株式会社 COO 中村 寛大(なかむら かんだい)氏が登壇し、DX時代の若者について語った。

次世代のリーダーを創出することをミッションとするタイガーモブ株式会社は、海外で挑戦する若者を増やしたいとオフラインで海外インターンシップ事業を行っていたが、新型コロナウイルスの流行で海外でのインターンシップが難しくなり、新たにオンライン海外インターンシップ事業を立ち上げた。

中村氏は「もともとは参加者の9割が大学生でしたが、オンライン化によって高校生から若手社会人までと参加者の年齢層が広がりました。インドでスラムのシングルマザーを支援するインターンやトーゴで障害者雇用を創出するインターンなどさまざまなプロジェクトに多くの若者がチャレンジしています」と多くの若者がデジタルを活用して挑戦を進めていると話した。

その一例として現役高校生のケースを挙げ、「 宮崎県立飯野高校の高校生は地元特産のさつまいもを海外にも広めたいと、カンボジアの日系商社でのインターンシップに参加しています。日中は高校に通学しながら、週4日17時〜19時勤務というスケジュールで仕事を体験しており、将来のキャリアを考える際の参考になるそうです。この高校生はカンボジアでのさつまいもブームの火付け役になりました。他にも、香川県在住の小学生がSDGsプログラムに参加し、環境問題について学んで小学校でコンポストを広める活動をスタートしたそうです」と若者の事例を複数紹介した。

最後に中村氏は「テクノロジーを活用することで若者がチャレンジする環境をたくさん作ることができます。若者の可能性が広がることは日本の発展にもつながるため、DXをうまく使ってチャレンジしてくれる人が増えることを願っています」と総括した。

DX時代の新たな営業職「デジタルセールス」に要注目!

11月12日に開催された「売上を伸ばすキーマン、 デジタル営業の育成とは」では、デジタルセールスに特化した人材を育成する「エムエム デジタルセールス・アカデミー」を運営する株式会社エムエム総研の米田 光雄(よねだ みつお)氏 、転職保証型テックセールス養成スクール「テックセールスキャンプ」を運営するWorx株式会社の藤原 義人(ふじわら よしと)氏 、次世代型営業のビジネススクール「ゼンフォースセールスアカデミー」を運営するゼンフォース株式会社の代表取締役CEO荻野 嶺(おぎの れい)氏といずれもデジタルセールス教育事業を行う企業の3名が登壇し、新しい営業のあり方である「デジタルセールス」について議論を交わした。

(左:株式会社エムエム総研・米田氏、中:Worx株式会社・藤原氏、右:ゼンフォース株式会社・荻野氏)

(左:株式会社エムエム総研・米田氏、中:Worx株式会社・藤原氏、右:ゼンフォース株式会社・荻野氏)

本セッションではデジタルセールスを「営業活動を効率的かつ効果的に行うため、デジタル技術やITツールを駆使する人」と定義した。従来のアナログな営業が訪問営業をしてアフターケアまで営業が1人で全てこなす一気通貫スタイルであるのに対し、デジタルセールスは無駄な飛び込み営業をせず、分業化された内勤営業でSFA(Sales Force Automation/営業支援システム・ツール)やCRM(Customer Relationship Management/顧客管理システム)といったITツールを駆使した営業活動がベースのスタイルであるとした。

なぜデジタルセールスという新しい営業職が生まれたのか、荻野氏は「以前の顧客は営業パーソンを通して情報を得ていましたが、時代とともに情報源がWebへと変わり、顧客に刺さらない情報はスルーされるように。今までの営業スタイルでは受注できなくなり、新しい営業スタイルが誕生しました。デジタルセールスはまだ始まったばかりですが数年後には大きくなる市場でしょう」と語った。

米田氏は「少子高齢化で労働人口が減少する中、営業パーソンが全て1人で担当するのは大変です。これまで訪問営業が中心だった企業も最近ではデジタルセールスを取り入れ始めています。営業の仕事を分業化し、インサイドセールス(見込み顧客を選定しアプローチする)、フィールドセールス(顧客と直接対話し商談を進める)、カスタマーサクセス(商品やサービスの利用によって顧客を成功に導く)など細分化された体制に変わってきています」と現状を説明した。

荻野氏は、企業がデジタルセールスを採用するメリットとして、生産性の高い営業活動ができるようになることを挙げ、「見込み顧客を獲得する、商談をまとめて受注する、継続して利用してもらうといった営業のプロセスをしっかりと分けて、それぞれのフェーズに専門職を置くというのが新しい営業組織です。それぞれが専門性を持って顧客に関わることで受注率を高め、売上を上げています」と話した。

また、デジタルセールスという職種は企業だけではなく労働者側にもメリットがあると藤原氏は言う。「新規開拓は得意でも既存客のフォローが苦手であるなど営業パーソンにもそれぞれ得手不得手があります。営業活動を分業化することで、個人の特性を活かしながら得意分野に注力できるというメリットがあります。また、分業化によって非対面での営業に切り替えることもでき、リモートワークやオンライン営業を可能としました。18時まで対面による商談をして、その後に見積もりを作成するといった長時間労働が前提の営業から、よりスマートにより柔軟に働けるようになったのもこれまでにないメリットですね」。

さらに米田氏は「BtoBの営業経験者だけでなく、例えば旅行業界やアパレル業界、ブライダル業界からデジタルセールスへの転身が増えています。これらの業界では顧客とのコミュニケーションのとり方がBtoBの営業と似ているなど、営業経験がなくても経験が活かせることもあります。デジタルセールスは、長期キャリアも描けますし、場所を問わずに働けるため、介護のためにUターンするといった働き方も可能で、求職者の需要にもマッチします。労働人口が減っていく中、デジタルセールスの知識を生きていく術として身につけていただけたら嬉しいです」とまとめた。

ITツールを駆使して働くデジタルセールスは企業にとっても労働者にとってもメリットが大きく、DX時代に注目の職種となりそうだ。

地方企業の人材採用支援をスタートした西日本新聞社

最後に紹介するセッションは11月12日開催された「優秀な人材を採用するための地方採用広報戦略」だ。株式会社西日本新聞社メディアビジネス局の酒田和之(さかだ かずゆき)氏が登壇し、地方企業の採用広報の実情を語った。

(株式会社西日本新聞社・酒田氏)

(株式会社西日本新聞社・酒田氏)

西日本新聞社はHR事業に進出し、求人情報に特化した検索エンジン「Indeed」の運用やチームマネジメント、新商品の開発を行っているという。その理由について酒田氏は「新聞広告の営業時代に、広告宣伝よりも採用に苦戦している顧客を数多く目にしました。大手企業でも採用に困っているのなら、ほとんどの企業で採用に困っているのではと考え、地方新聞社だからこそ地方企業の採用支援ができるはずだと事業を開始しました」と語る。

酒田氏は採用市場の変化について、「現在はIndeedを始めとする求人クローラーの全盛期です。個人の価値観がお金から本当の価値へとシフトする評価経済社会へと変わり、従来の求人広告に頼る採用活動ではなく、採用広報やブランディングが重要になってきています」と説明する。

1990年代〜2010年頃までは採用といえば求人広告が中心だったが、2010年代の中頃から採用マーケティングや採用広報、ブランディングが重視され始めたと酒田氏。「広告より広報、ブランディングが重要となる時代です。なかでも求人といえばIndeedでしょう。Web上のさまざまな求人情報を網羅しており、国内外で圧倒的なユーザー数とSEOの強さを誇ります。Indeedに自社の求人情報が掲載されていなければ、採用市場で非常に不利でしょう」と語った。

酒田氏は求職者が応募までにどのような行動をとるのかについて、「まず求職者はIndeedなどで気になる企業をチェックします。すぐに応募はせず、一度Indeedから離脱して『企業名 採用』といったワードで検索します。企業の公式採用情報や他メディアでの評価、Glassdoorといった企業の口コミサイトで色々と調べて、いいなと思ったら応募します。そこで大切なことは求職者がネットで企業を調べたときに、自社の情報がきちんと届く状態になっているかということ。公式サイトがスマートフォンに対応しているか、Indeedと公式採用サイトの条件が一致しているかなどを確認した方がよいでしょう」と解説した。

また、DX人材など優秀な人材をめぐって激しい獲得競争がある中で、地方の中小企業が大企業に勝つためには、企業の理念や存在価値といった「らしさ」を理解共感してもらうことが不可欠だと酒田氏は訴える。

「企業の知名度や待遇面で大企業に勝てない地方企業は、『らしさ』を求職者に理解し共感してもらえるようにきちんと自社の情報やストーリーを発信することが大切です」と採用広報の重要性を印象づけた。

以上、前編・後編にわたって、FUKUOKA DX WORLDの見どころをお伝えしてきた。

FUKUOKA DX  WORLD運営実行委員会の越ヶ谷泰行(えちがたに やすゆき)氏は、地方企業のDX推進に関する課題について「デジタルサービスを提供する企業からデジタル化を勧められてサービスやツールを導入したものの、思うような効果を得られていない企業が多く見られます。デジタルツールの導入だけが先行してしまい、仕事の進め方や顧客への価値提供の方法を変革せず、自社のあり方や意識の変革ができていないことが原因ではないでしょうか」と語った。

こうした課題を解決するための方法として、「変化の大きい今の時代において、デジタルツールの導入で効率化するといった切り口ではなく、いかに自社の意識改革を行うかがDX推進につながると考えています。そのためには自社のみではなく、行政をはじめとした地域が変革をサポートすることが重要です。サポートの一環としてセミナーやイベントの開催が求められると思います」といい、セミナーやイベントの有用性を訴えた。

福岡を皮切りに開催されたFUKUOKA DX WORLDは、この先さまざまな地域でも開催を予定しているという。ぜひ今後のイベントにも注目したい。