「DXで変わる!北九州の企業」シリーズ⑩石川金属工業編
北九州市の中小企業では「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が進む。シリーズ第10回目は石川金属工業の事例を紹介。
オンライン承認で意思決定が迅速に“紙文化”から脱却の意識改革へ
1928年創業の「石川金属工業」。めっき加工からスタートし金属やプラスチックなどの“表面処理”を主に手がける。新しい加工技術も積極的に導入し、取引先には自動車、鉄鋼、住宅産業のトップメーカーが並ぶ。
歴史ある会社だけに、業務スタイルを変えることは容易ではなく“紙文化”が根強く残っていた。コロナ禍を機にテレワーク導入の検討を進める中、社内の意思決定が迅速にできる電子決裁を採用。天達靖雄取締役はデジタル化による業務効率化を目指している。
テレワーク導入の可能性を検討
製造業は、何かトラブルがあったとき、すぐに取引先に駆け付ける体制が必要。常に社員は事務所や工場にいることが当たり前だった。
従来通りの仕事のやり方を続ける現状に常日頃、「IT化やデジタル化の遅れ」を感じていた企画部企画課長の原義太郎さんは、コロナ禍を「テレワーク検討のいい機会」と捉え、「工場はともかく、事務部門だけでもテレワークを導入できないか」と可能性を探っていった。
「紙」の業務をデジタル化
そんな原さんがインターネットで見つけたのが、北九州市ロボット・DX推進センターの支援事業。さっそく利用を決めて依頼した。
専門家としてシステム開発会社「リンクソフトウエア」の矢野宏之さんが派遣され、次の内容を支援した。
❶テレワーク実施に当たっての基本的な考え方の説明 |
❷紙を使用した業務の中から「給与計算」「注文書発行」を抽出し、ワークフローの作成・確認 |
❸❷で電子印を使用する場合の推奨ソフト、使用方法などの説明 |
テレワークを導入する上でネックになるのが「紙」を使う業務が多いことだ。矢野さんは給与計算と注文書発行について、現状の業務の流れとそれをデジタル化した場合の2種類のワークフローを描いて、何がどう変わるか説明。市のDX関連補助金を活用したワークフローシステムの導入を提案した。
デジタル化の意義が社内に浸透
矢野さんの提案を受けて、まず社内の稟議書をデジタル化。紙に印刷して各地の事業所や各役員に郵送するため、それまで2週間ほどかかっていた承認が、オンライン処理に変えることによって最短1~2日で完了するようになった。新しい設備の導入時など、日程短縮は売り上げ増に直結する。「投資対効果が高いと、デジタル化への抵抗感も薄らぐ」という原さんの期待通り、スムーズに移行できたという。
各事業所が1日に数十枚発行する注文書も、社内でシステムを作り、全てオンラインで完結できるようになった。こうして成功体験を重ねることで、「デジタル化すると効率が上がる」という意識が社内に浸透していった。
「電子決裁の導入により、出張先でも承認ができるようになった」という天達取締役は、「第一歩を踏み出すことは難しかった」と振り返る。まだ踏み出したばかりと言いつつも、「これから社内文書の全てをデジタル化していきたい」と話す。さらにデジタルによる意思決定の迅速化により、顧客のニーズに即応できる体制を整え売り上げ増加につなげたいという。
支援者メッセージ リンクソフトウエア株式会社(センター登録専門家)矢野宏之さん
成功体験を重ねる中で抵抗感の払拭を
最も手間や時間がかかる業務をサンプルとして抽出し、その業務をテレワークでもできるように変えることを提案しました。ITに対して社員の抵抗感が強いと事前に聞いていたので、何か一つ、成功体験をすることが大切だと考えたのです。大変な部分でデジタル化を実現したところで、他にも適用。そうしてステップを踏んでいけば自然に受け入れられるだろうと思いました。
支援後は効果を実感してもらえているようですので、事業の優先順位をつけて電子決裁を活用していってもらえればと思います。
リンクソフトウエア株式会社
住所:北九州市小倉北区吉野町10-30-201 URL:https://www.link-software.co.jp/
事業内容:コンピューターシステムやソフトウェアの開発、ホームページ制作、セミナー運営 ほか
1928年に石川メッキ工場として創業。主な事業内容は、物質の表面に金属の薄い膜を施す「めっき」や「蒸着」の表面処理業、研磨、物理解析など。市内の3工場をはじめ、関東以西にグループ会社8社(本社含む)および7カ所の事業所を展開している。従業員231人。
石川金属工業 株式会社
代表者:代表取締役社長 石川重喜
住 所:北九州市小倉北区赤坂海岸2-1 URL:http://isikawa-k.co.jp
動画公開中 DXで変わる!北九州市の企業⑩石川金属工業編
このDX推進をサポートしているのが「北九州市ロボット・DX推進センター」
公財)北九州産業学術推進機構 (FAIS)が運営する「北九州市 ロボット・DX推進センター」は、地域の中小企業のニーズに応え、ロボット導入やDX(loTの導入、業務のデジタル化等)推進をワンストップで支援する機関。
導入支援、操作体験、人材育成等の取り組みを通して、ロボット導入やDX推進に意欲のある地域企業を総合的・一元的に伴走支援。
また、集い・つながりの場として、地域企業と高等教育機関、金融機関等との連携を促進し、産学官金のハブとしての機能を果たす。
今回紹介しているDX推進支援においては、専門家を派遣し、Web会議やAI・IoT等、ITツールを取り入れた新しい ビジネススタイルへの転換を図る企業に対して、専門家を派遣し、課題解決を支援している。