北九州市内の先進事例から学ぶDX実践ガイドブック_ハピクロ
【北九州市内の中小企業が実践したDXの先進事例を紹介】
経営課題 働き方改革・長時間労働 令和5年度 北九州DX大賞 優秀賞 ハピクロ
異業種の視点で挑む、保育業界の構造改革「便利の積み重ね」でデジタル化を浸透
きっかけ ●エンジニアと保育士のタッグで待機児童問題を解消 ●デジタル化でホワイトな労働環境の実現を目指す
地域課題を議論するビジネス交流会に参加し、北九州市の待機児童問題を知ったDXの推進支援も手がける中田佳孝代表取締役。同じテーブルだった保育士の吉田真由美氏(現にじいろのはな保育園園長)と、空き家を活用した託児所運営のビジネスプランを考案し、2017年6月にハピクロを創業。18年4月に、北九州市認可小規模保育事業所「にじいろのはな保育園」を開所した。 開所に向けたさまざまなリサーチを行う過程で中田代表取締役が目の当たりにしたのは、保育業界に深く根付いた厳しい労働環境だった。サービス残業や持ち帰り仕事の常態化に疲弊した保育士が次々と離職していく現実は、業界の人材不足、ひいては待機児童問題の根本的な原因となっていた。「保育士が心身ともに健康でなければ、子どもたちに良質な保育は提供できない」。そう確信した中田代表取締役は、「ITを活用してホワイトな労働環境の保育園をつくる」という方針を掲げ、「保育業界の慣習」を打破する取組を開始した。
取組内容 ●異業種視点とデジタル活用で業務を効率化 ●物理的な仕組みにより長時間労働を防止
取組の核心は、保育士が子どもと向き合う時間を最大化するための「業務の仕分け」にある。かつてITコンサルタントとして製造業のデジタル化を進めた経験を持つ中田代表取締役は、製造業で一般的に行われている工程管理を参考に、保育士の業務を細分化した。人がやるべき業務と機械に任せるべき業務を明確に切り分け、事務作業や安全管理にデジタル活用を推進。具体的には、給食の食材発注における複雑な計算や日々の保育記録、指導計画の作成などを自社開発のシステムでデジタル化した。その結果、手書きや手計算による膨大な手間と時間を削減した。また、午睡(昼寝)中の見守り業務をセンサーで補助する午睡チェックシステムや危険行動や事故の防止に効果的なAIカメラも導入。安全管理においてもデジタルツールを活用し、保育士の心理的負担の軽減を図っている。 長時間労働については、「意識だけで残業はなくならない。物理的に締め出す仕組みが必要」と、ICカードに連動した「スマートロック」を導入。勤務時間外は鍵が開かない状態にして、サービス残業の根絶と定時退社を徹底した。こうした仕組みづくりにおいて重視したのが、「現場が本当に困っていること」に寄り添うことだ。吉田園長が意見をまとめた「現場の困りごと」に応える機能と、ITに不慣れな保育士でも使いこなせる操作性を兼ね備えたツールが、現場を強力に支えている。

乳幼児突然死症候群(SIDS)予防のためのセンサーによる見守り装置
成果・展望 ●業務効率化で生まれた余白が保育の質を向上 ●自社開発システムを他園に展開
取組の成果は保育士の働き方や保育の質に明確に表れている。持ち帰り仕事や残業は解消され、家族の転勤を理由に離職したケースはあるものの創業以来、保育士の顔ぶれに大きな変化はないという。産休や育休を経て復職してくる保育士も多いことから「理想の保育を実践できる環境になっている証拠。プライベートが充実することで、先生たちが笑顔で子どもに接することができています」と吉田園長は明かす。保育の質が向上したことで、定員19人の小規模園ながら入園待ちの園児がいるほどの人気園となった。保育士不足が叫ばれる中でも、働きやすい環境づくりが、採用と人材定着の両面で有効であることを裏付けた形だ。

入力の手間と時間を大幅に削減した自社システム

園児の危険行動や事故を防ぐAIカメラ
現在は、AIカメラを活用した「危険予知システム」の実証実験も進めている。死角でのトラブルや事故のリスクをAIが検知し、保育士の目を補完する試みだ。一方で「何でもかんでもデジタル」の風潮には疑問を呈する。「保護者との連絡帳をデジタル化している園は多いですが、アプリとスマホの環境によって大切な思い出が消失するリスクを考慮し、私たちはあえてアナログで継続しています。大事なのは目的や意図に応じて選択すること。子どもと接する部分がITやAIに置き換わることはないでしょうが、人の限界をデジタルで補うことに力を入れたい」と語る中田代表取締役。今後は自社で開発したこれらのシステムやノウハウの、他の園への導入提案にも意欲を見せる。ハピクロの取組を周知することが、業界の働き方改革につながるよう期待したい。
経営者のメッセージ 中田 佳孝 代表取締役

「DX」という言葉に踊らされず、まずは自社の課題整理を徹底してください。現場の何が負担で、解決するとどう経営が良くなるのか。目的が明確であれば、導入すべきツールや手法はおのずと決まるはずです。
現場担当者のメッセージ 吉田 真由美 園長

ITやDXって、これまで保育業界になかった言葉なので、「わからないから要らない」と思いがちですが、実は業務改善できる可能性があることを知ってほしいです。ぜひ、怖がらずに、専門家を頼って相談してみてください。
2017年創業。北九州市認可小規模保育事業所「にじいろのはな保育園」、イベント・レンタルスペース「BABY ROOM」を運営。保育現場の課題を解決するITシステムの開発や販売、DX支援、コンサルティング事業も展開。従業員数36人(非正規含む/2026年3月時点)。
株式会社ハピクロ 代表:中田 佳孝 代表取締役
住 所:北九州市八幡西区八千代町3-16
ホームページ : https://hapikuro.com/ ※写真は「にじいろのはな保育園」
DX推進をサポートする「北九州市ロボット・DX推進センター」

公財)北九州産業学術推進機構 (FAIS)が運営する「北九州市ロボット・DX推進センター」は、地域の中小企業のニーズに応え、ロボット導入やDX(loTの導入、業務のデジタル化等)推進をワンストップで支援する機関。
導入支援、操作体験、人材育成等の取り組みを通して、ロボット導入やDX推進に意欲のある地域企業を総合的・一元的に伴走支援。
また、集い・つながりの場として、地域企業と高等教育機関、金融機関等との連携を促進し、産学官金のハブとしての機能を果たす。
DX推進支援においては、専門家を派遣し、Web会議やAI・IoT等、ITツールを取り入れた新しいビジネススタイルへの転換を図る企業に対して、専門家を派遣し、課題解決を支援している。
北九州市ロボット・DX推進センター
運営 公益財団法人 北九州産業学術推進機構(FAIS)
〒808-0135北九州市若松区ひびきの北8−1 TEL092-695-3090