事例

DXで農家の課題を解決
生産性向上、持続可能なスマート農業への挑戦

 DX(デジタルトランスフォーメーション)は、第1次産業でも注目されている。特に農業従事者の高齢化や労働力不足が深刻化する日本では、デジタル技術による効率化や生産性向上、さらには農業DXの推進による持続可能な農業の確立に期待が寄せられている。(公財)北九州産業学術推進機構(FAIS)が運営する「北九州市ロボット・DX推進センター」の支援のもと、DX推進に取り組んでいる株式会社桃源舎の事例を紹介。

 桃源舎は、福岡県をはじめ九州各地の農家と直接契約し、「ひと味違う」こだわり野菜の卸売りと直販を行う農業ビジネスのリーディングカンパニーとして、2006年の創業以来、順調に業績を伸ばしてきた。

 しかし、「経験と勘」頼りの作業工程、不安定な収益構造といった中小規模の農家が抱える共通課題を解決しないことには、将来への確かな展望は開けない。従来、農業の持つ“宿命”とみなされてきたこれらの課題も、最新のデジタルテクノロジーを活用すれば、解決への道筋が見えてくるのではないか。そう考えた中村吉孝代表取締役はFAISに相談し、デジタル化の取り組みが始まった。

「経験と勘」頼り、不安定な収益構造からの脱却を

桃源舎・中村吉孝代表取締役

 桃源舎では、九州各地の契約農家から野菜を仕入れて北九州市内のスーパー、直売所などで販売するとともに、本社から車で1時間ほど離れた地にある直営農場マザーランドでミニトマト、キュウリ、イチゴなどを生産している。農場での業務は、他の中小農家と同様、「経験と勘」頼りで的確な作業計画が立てられず、スタッフへの適切な作業指示や実績の管理ができずにいた。

 また、コスト意識も薄く、実質「どんぶり勘定」。出荷量や時期、価格も天候に左右されるため収益の見通しが立たず、異常気象や災害、鳥獣害などの緊急事態への対応策も立てられず、生産効率化と収益構造の安定化が課題となっていた。

センサーと「見える化」で農産物の生育安定化

 これらの課題の解決へ向けて、FAISの林コーディネーターは、農業ポータルシステム「営農日誌、収益管理システム:えいのうのいえ」を中心に、農業センサーを導入して育成環境を「見える化」することを提案した。さらに、得られたデータを作業記録、育成記録と連携することで農産物の生育安定化を図り、利益を確保。収益構造の安定化を目指すこととした。

タブレットで生産者の一元管理を実現

 これまでホワイトボードを介していた作業計画と作業指示は、「えいのうのいえ」システムで桃源舎本部から直接送信。マザーランドではその指示に従って作業し、タブレットで実績を入力する。また、農場に設置したセンサーで、温度、湿度、CO2濃度、日射量などのデータを5分おきに取得してクラウド上にアップ。本部でリアルタイムに確認できるのみならず、蓄積されたデータと生育状況のモニタリングから的確な生育判断ができるようになった。

作付面積2割増、AI活用で収益向上も期待大

 桃源舎とマザーランドのやりとりは業務用チャットで行われ、これまでのように電話指示に手間を取られることもなくなった。また、各種の情報が共有されるため、本部と農場の間のコミュニケーションは格段に向上。育成状況に作業予定、実績、コスト、利益などすべてが「見える化」されたことと併せて生産性の向上につながっている。中村代表によると「この時期、この土壌にどういう品種がいいのかなどをデータから検討できるようになった」ことで、結果的に作付面積を2割ほど増やすことができた。

 こうして、生産性の向上、育成の安定化、機械の制御が実現。情報が連携、蓄積されることで「将来的にはAIによって分析し、収穫の安定化や収益向上を目指したい」という。

支援者メッセージ 北九州産業学術推進機構(FAIS) 林 俊夫 コーディネーター
「利益の上がる農業」への転換を支援します

 農場での生産計画と実績、生育状況などのデータ化によって売り上げや利益の予測・算出ができるようになりました。作物の生育状況が「見える化」され、さまざまなリスクへの対応も可能です。今後、スタッフとの信頼関係の向上やスキルアップによる作業効率の向上、データに基づいた適切な育成環境の構築で安定出荷が期待できます。さらなる効率化と省力化を進めることで規模拡大への投資も可能になるでしょう。 
 FAISではDX推進へ向けて、先進的な取り組みを行うことで他の事業者や生産者のモデルとなるような事業を支援しています。引き続き、農業DX普及による「利益の上がる農業」への転換をサポートしていきます。お気軽にご相談ください。

2006年、小倉南区長行に「おさゆき野菜村」と名付けた店舗をオープンし、翌年、法人化。農家産直にこだわり、九州各地の契約農家から仕入れた農産物と直営農場「マザーランド」で栽培したミニトマト、セロリなど卸売と直販を展開。農業の担い手を育成する営農支援、就農支援にも力を入れている。
 
株式会社桃源舎
代表者:中村 吉孝
住 所:北九州市小倉南区徳吉東1-17-20
URL:https://www.osayuki-yasaimura.com/
 

 

動画公開中 DXで変わる!北九州の企業 農業DX-桃源舎編

このDX推進をサポートしているのが「北九州市ロボット・DX推進センター」

公財)北九州産業学術推進機構 (FAIS)が運営する「北九州市ロボット・DX推進センター」は、地域の中小企業のニーズに応え、ロボット導入やDX(loTの導入、業務のデジタル化等)推進をワンストップで支援する機関。

導入支援、操作体験、人材育成等の取り組みを通して、ロボット導入やDX推進に意欲のある地域企業を総合的・一元的に伴走支援。
また、集い・つながりの場として、地域企業と高等教育機関、金融機関等との連携を促進し、産学官金のハブとしての機能を果たす。

今回紹介しているDX推進支援においては、専門家を派遣し、Web会議やAIIoT等、ITツールを取り入れた新しい
ビジネススタイルへの転換を図る企業に対して、専門家を派遣し、課題解決を支援している。

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